第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「…えっと…どいう…ことですか?」
その時点で何かとてつもない違和感みたいなものを感じ、
「ところで千寿郎、彼女の名前はすずねと言う名前ではない!なぜ、彼女の名前がすずねだと思ったんだ?」
兄上のその問いに、僕の中の違和感が確証へと形を変えた。
「…っ兄上!その人は本当に「千寿郎」」…っ!」
僕のその問いを遮ったのは、
「「父上」」
他でもない父上だった。
「杏寿郎、瑠火が夕食を温め直し待っている。早く手を洗って居間に行け。千寿郎、話がある。それを置いたら俺の部屋に来なさい」
有無を言わさないその父上の言葉に、おそらく父上は兄上と僕の会話が聞こえていたのだろうなと察しがついた。
兄上は居間の方をチラリと見た後、
「千寿郎、続きはまた後で聞いてくれ」
僕に向かって笑顔でそう言い残し、洗面所へと去って行った。落とした洗濯物を拾えないまま兄上の背中を見ていると、それを見かねた父上が僕の代わりにそれを拾い上げる。そして、左手でそれをもち、右手を僕の背中に添えると、
「俺の部屋に行こう」
と、今度は先ほどよりも優しい口調で、まるで言い聞かせるかのように静かに言った。
「と言うと、杏寿郎はどういうわけか、すずねじゃない他の女性を、自分が長年探し求めていた相手だと誤解し交際していると、そう言うことか?」
「はい…おそらく…」
父上はグッと眉間に深い皺を作り、腕を組みながら何かを考えているようだった。
「名前が違っているだけで、実際にはすずね本人である可能性はないのか?」
父上のその問いに、僕は先程交わした兄上とのやり取りを思い出す。けれども、改めて考えれば考える程
「仮にすずねさん本人だとして、"絶対に自分がその相手だと"、そんな風に言うとは思えません。なにより……」
そう言うなり口を閉じる僕に
「なによりなんだ?」
父上がその先の言葉を発するように促す。
「…っなにより、兄上と再会を果たしたすずねさんが、父上や僕に…すぐ会いに来ないなんて考えられません!父上とすずねさん、そして僕が3人で過ごした時間は…そんな軽い時間ではなかったはずです…っ!」