第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「…っおかしいと思ったんです!ようやく探していた女性を見つけることが出来たと、また恋人同士になれたと言っていたのに…いつまで経っても、兄上はその恋人を家に連れてこないんです!…そんなの絶対におかしいでしょう!?すずねさんが…父上や僕に会いに来ないはずがないんです!…恥ずかしいからまだ会いたくないなんて…言うはずがないんです!!!」
千寿郎さんは、そう言いながら悔しそうに顔を歪めている。
「僕はもし、兄上が勘違いをして、その誰とも知らない女性をすずねさんだと思い込んで交際しているのであれば…その人は違うと!すずねさんじゃないと!教えたかったんです…っ!だから…っ!」
千寿郎さんはそう言うと、とうとう涙を堪えることが叶わなくなったのか、大きな瞳からポロポロと涙を流し始めた。私は慌ててカバンからポーチを取り出し、中にある予備のハンカチタオルを取りだす。そして、その涙を優しくポンポンと拭った。
「…すずねさんは相変わらず優しいですね」
「…そんなことないよ…」
「僕は、そんなすずねさんのことが、今も昔も大好きです」
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「千寿郎!聞いてくれ!」
仕事から帰宅し、洗濯物をしまおうと廊下を歩いていた僕の顔を見るや否や、兄上は家中に聞こえてしまいそうな程の大声でそう言った。
「どうしたんですか?兄上、なんだかやけに嬉しそうですね?」
その様子があまりにも珍しく、僕は何を言われるのだろうかと胸がワクワクとした。
「実はな、兄は今日、とうとう探し人と再会できたんだ!」
その嬉しい知らせに、僕は持ってた洗濯物をバサリと下に落とし、兄上に近づくと、そのシャツをギュッと両手で掴んだ。
「…兄上…っすずねさんに会えたんですか!?すずねさんのことを思い出したんですか!?」
僕がそう興奮気味に聞くと、
「いや!まだ完全には思い出せていない。だがしかし、彼女に声を掛けた時、彼女は俺のことを確かに覚えていると、探し人は絶対に自分であるとそう言っていた!」
兄上はそう答えた。