第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
自分よりも少し大きな千寿郎さんに手を引かれ、たどり着いたのは駅の近くの公園だった。
駅の近くにこんな公園があったんだ。
まだ引っ越してきたばかりで土地勘のない私は、先程の杏寿郎さんとの最悪の再会を頭の奥底に沈めようとするかのようにそんなことを考えていた。
「ここに座りましょうか」
そう言って千寿郎さんに座るよう促されたのは、噴水の前に設置されている3人ほど座ることのできるベンチだ。
「…はい」
弱々しく返事をし、私はそのベンチにドスンと力なく座る。千寿郎さんも私が座るのを確認すると、ほんの少し隙間を開けて私の隣へと座った。並んで座ったのにも関わらず、お互いに何から話すべきなのか考えあぐねているのか、沈黙が続き、聞こえてくるのは近くで楽しそうに遊んでいる子どもたちの声と、散歩に来ている犬の鳴き声だけだ。
「…千寿郎さんは、私のこと…覚えてるの?」
沈黙を破り、私がそう尋ねると
「っもちろんです!すずねさんは僕の大切な家族です!忘れるはず…ありません!」
千寿郎さんは、前世でもあまり聞いたことのない大声を出しながらそう答えた。
その答えが、"忘れるはずありません"と言う言葉が、私の心を大きく抉っていることにはきっと気が付いてはいない。
もう枯れてしまったと思っていた涙が再びじわりと込み上げてくる。
「…っ…杏寿郎さんは…私のこと…覚えて…っ…ない…の…?」
私のその問いに、千寿郎さんが
「…っ!」
と声を詰まらせた。
「…っ約束…したのに……っ…なんでよ…どうしてよ…っ…」
そう言いながらグズグズと泣く私に
「…違うんです!兄上も…全く覚えていないわけでは無いんです!」
千寿郎さんは立ち上がり、私の両肩をその両手でグッと強く掴みながらそう言った。
「…どういう…こと…?」
私はボロボロと涙を流しながら千寿郎さんの顔を見上げる。