第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「…っ…待って「あの!」…!」
今度は明確に、彼女が私の声を遮った。
「私達、今デート中なんです。どこの誰だか知らないけど、私の"彼"に何かようでもあるんですか?…邪魔しないでもらえます?」
「…っ!」
そう吐き捨てるように告げ、彼女はさらに腕を引く力を強め、2人が遠ざかっていく。杏寿郎さんに、手をふり解き、私の元に来てくれる様子はやはりない。
けれども
チラッ
私の方を、眉を下げながら一度だけ振り返った。
「…ほら!杏寿郎!」
尚も腕を引く彼女に連れられ
「…あぁ」
杏寿郎さんの背中は、私から遠ざかって行く。
「…っ嘘つきー!!!!」
自分がどこにいるかなんてことを忘れて、私はその背中に向かって叫んだ。
ボロボロを涙を流しその場で泣き続けることしかできず、自分がどれだけの間そこでそうしていたのかはわからない。私の横すり抜けていく人は、不審気な顔で私をチラリと見遣り、関わりたくないと言わんばかりに目を逸らし通り過ぎていく。
けれども、
「お姉さーん?こんなところで泣いてどうしたのぉ?」
「大丈夫ぅ?俺たちとパッと遊んて元気出そうぜ?」
そんな私を、左右から挟むように囲うチャラけた男の声がふたつ。
「振られちゃったのかな?俺たちが良いことして忘れさせてあげる」
そう言いながら私の肩を、腰を抱く男たちの手を、いつもの私だったら
"触らないでください。叫びますよ"
くらい平気で言えたのに、
"この辛さが少しでも軽くなるのであればどうなったって良い"
そう思っている自分がいた。
「ほらほら。こんな場所でいつまでも泣いてたら目立っちゃうし、俺たちと違って悪い人に捕まっちゃうよ?」
「そうだそうだ。俺たちが安全な場所に連れてってあげるから、3人でイイコトしよう」
そう言いながら、私の肩と腰をがっしりと掴み、どこかへと移動しようとする男たちに、抵抗しようなんて気持ちは少しも浮かばなかった。
「…っすずねさんを離してください!」
聞き覚えのある懐かしい声に、俯いていた顔を静かに上げる。