第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「……どうして………?」
何年も探し続けて、ようやく見つけた私の愛した…いや、愛する人の隣には、私とどこか雰囲気の似た女の人がいて、私が大好きでたまらなかったその左腕にその腕を絡み付けるように抱きついていた。そして、まるで親の仇にでも会ったかのような顔で私を睨見つけており、腕に絡みつく力をギュッと強め
この人は私のものよ
とその目が、行動が私へと訴えかけていた。100歩譲って…100歩譲ってそれはいい。けれども、私の心を抉るように傷つけるのは、私と目と目があったのに、その腕を振り解く様子もなく、ただただ目を見開きながらこちらを見ている、愛する杏寿郎さんの、あの頃とは全く違う行動の方だった。
その行動一つが、
杏寿郎さんにはあの頃の記憶がない
という事実にたどり着くのには十分だった。
どこにいようと必ず俺が君を見つける。
今度こそ幸せにする。
俺を信じてくれ。
約束だ。
君は俺だけのもの
どの世に行こうとも
誰にも渡しはしない。
記憶が戻ったあの日から、その言葉を信じてずっと探しに来てくれることを、見つけ出せることを願っていたのに。
「…ねぇ、杏寿郎。あの人、私達のことじっと見て何なのかしらね?」
そう言って甘えた声を出し、隣りの杏寿郎さんをじっと甘えるように綺麗に縁取られた瞳が見上げる。その彼女の問いに、杏寿郎さんは何も答えることなく、依然として私のことを目を見開きながら見ている。その様子から、
もしかしたら全然覚えていないわけじゃないのかもしれない!話せば、話をすればきっと…っ!
そう思い私がその愛おしい名を呼ぼうと口を開こうとした時
「ほら!映画の時間に遅れちゃう!早く行きましょう!」
彼女は、私のその行動を許さないと言わんばかりにそう言うと、杏寿郎さんの腕をグイグイと引っ張りその場を去ろうとしていた。杏寿郎さんは、彼女が腕を引っ張る力に従い私の前から去ろうとしている。