第19章 あなたのためなら何でも【暖和】※裏表現有
お店を出て、車に向かっている間も、杏寿郎さんはピッタリと私にくっついて離れず、そんな様子もとても可愛いと喜んで受け入れてしまう私も大概だ。
「杏寿郎さん。もうすぐ車ですから、頑張ってください」
「うむ!酒を飲んでこんなにフワフワとするのは初めてだ!これが酔うと言うものなのだな!」
「お外なんですから、もっと声を抑えてください」
「そうだな!すまない!」
全然抑えられてませんけど。でも…やっぱり可愛い。
そんな風に二人くっついて歩き、車の鍵を開け、運転席に乗り込もうとした時、
「…っおい!」
背後から呼びかけられ振り向くと、
「不死川!どうした?」
不死川様が慌てた様子でこちらに走って来ていた。よくよく見ると、その手には杏寿郎さんの仕事用の鞄と、可愛い紙袋が握られている。
杏寿郎さんの鞄!忘れて来ちゃってたんだ!
「…っすみません!杏寿郎さんの鞄、すっかり存在を忘れていました!」
「忘れたのは煉獄だろォ。お前が謝ることじゃねェ」
慌てて手を差し出し、杏寿郎さんの鞄を受け取る。そして不死川様の反対の手にある可愛い紙袋にも手を差し出すが、
「…これは、煉獄に渡す」
不死川様はそう言うと、助手席側にいる杏寿郎さんの方へとスタスタ歩いていった。
…あの話の感じからして…中身は…きっと…そっち系のものなんだろうけど…一体何なんだろう
あまりここで首を突っ込むと、恥ずかしい思いをするのは自分だろうなということが容易に想像できたので、私は大人しく運転席へと乗り込む。
「すまない不死川!せっかくもらったプレゼントを忘れて来てしまうとは、宇髄にすまない事をしてしまった」
そう言いながら杏寿郎さんは不死川様の手から紙袋を受け取った。
「そんなんどうでも良いが…あんま無理させんなよ?」
不死川様が声を落としてそう言っているのが聞こえてしまい、何とも気恥ずかしくなってしまった私は黙って車のエンジンを掛ける。
いい大人だし…恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど…気にしてもらえるってことは杏寿郎さんがみなさんに好かれてるってことだし…いいんだよね?
"よくないと思いますよ"
頭の中でしのぶさんがそう言ったような気がしたが、
気のせい気のせい
そう思い
「じゃあなァ」
と去っていく不死川様の背中を見送った。