第19章 あなたのためなら何でも【暖和】※裏表現有
個室に近づき、聞き覚えのある笑い声が耳に入ってくる。そして小上がりになっている、5足の靴が並んでいる襖の前に着くと、
「宇髄様、失礼します。お迎えの方がお見えになりました」
店員さんがそう声をかけてくれたので再び店員さんにお礼を述べてから私は襖に手を掛けた。すると、
"おい!こんな狭いところで走んな!"
という声と共に
バタバタとこちらに近寄ってくる足音が聞こえ、
スッ
とまるで自動ドアのように勝手に襖が開き、にゅっと太い腕が伸びてくる。
「すずね!会いたかった!」
「うわ…っぷ!」
そして、その腕の持ち主、杏寿郎さんにぎゅうっと苦しいほどに抱きしめられてしまった。
…く、苦しい…!潰される…!
あまりの力強い抱擁に、皆さんの前でとかそんな考えは少しも浮かんでこず、とにかく息が苦しい。
「馬鹿お前!自分の力考えろ!柏木が潰れるぞ!」
そう言って
バシッ
こ気味良い音を立てて杏寿郎さんの頭を叩いたのは宇髄様だ。
杏寿郎さんは、頭を叩かれたことなど少しも気にする様子もなく
「すまない!すずねが来てくれたことがあまりに嬉しくて、抑えが効かなかった!夫として不甲斐ない!」
と、いつも大きな声量をさらに大きくしながらそう言った。
「…宇髄様、ありがとうございます。流石の私も意識が飛んで行ってしまうところでした…」
「いいってことよ!」
そう言ってニカッと笑う宇髄様に、
「そもそもなァ、お前が煉獄に余計なこと吹き込むからこんなに酔っ払っちまったんだろォ。元凶が偉そうなこと言うんじゃねえよ」
腕を組み、ジトリと宇髄様を睨みながら不死川様がそう言った。
私はその不死川様の
"余計なこと"
と言う部分が気になり、首を左に傾ける。
「…余計なこと…とは、なんでしょう?」
私が不死川様にそう問うと
「それはだな!」
背後から私に纏わりつくようにくっついていた杏寿郎さんが大声で喋り出そうとするのを
「だぁぁあ!やめろォ!言うんじゃねェ!」
と、不死川様がそれに負けない大声で杏寿郎さんの言葉を遮る。
そんな様子に私の頭は、ますます疑問符で埋め尽くされていった。