第19章 あなたのためなら何でも【暖和】※裏表現有
「…杏寿郎さん?酔っ払ってるんですか?」
私は
"杏寿郎さんは酔っ払っている"
という結論に至り、再び杏寿郎さんに質問を投げかけるも、
「酔っていない!ただすずねに会いたいだけだ!」
と、やはり噛み合わない答えが返ってくるだけだった。
…絶対に酔ってる。困ったなぁ。
私がそう考えあぐねていると、電話の向こうで
"ちっとも話が進んでねぇじゃねぇかァ!その電話かせやァ!"
'"む?不死川はそんなにすずねと話がしたいのか?仕方ない…少しだけ変わってやろう!"
"ちげぇわァ!いいからさっさと変われェ!"
杏寿郎さんと不死川様のそんな会話が聞こえてきた。
ゴソゴソっと何やら物音がした後、
"おう、柏木。今大丈夫かァ?"
杏寿郎さんの電話に不死川様が出たようで、何だか随分と疲れた様子の声が電話の向こうから聞こえてきた。
「はい。大丈夫です。杏寿郎さん、珍しく酔っ払っているみたいですね。お迎え、どこに行けば良いですか?」
"話が早くて助かる。駅の近くにある、"居酒屋鰯"って店なんだが、わかるかァ?"
「ナビで検索していきますので大丈夫だと思います!すぐに出てしまっても大丈夫ですか?」
"あぁ。こんな時間にすまねぇなァ。宇髄のやつが煉獄にいらねぇこと吹き込みやがるからよォ…ってテメェら!何また飲んでやがる!いい加減にしろ!店の酒が無くなっちまうだろうがァ!"
不死川様の怒鳴り声に、私は再び片目を瞑る。
はぁぁぁぁ。
電話の向こうから、不死川様の長く、深ーい溜息が聞こえる。
「…なんか…すみません。今すぐ出ますので、少しお待ちください!」
"おう。悪りぃなァ"
「いいえ。こちらこそ、杏寿郎さんがすみません。着いたらこの電話に連絡しますので!」
"あァ。気をつけてこいよ。じゃあなァ"
"む!?不死川!?なぜ勝手にすずねの電話を…"
ブツッ
杏寿郎さんの言葉を遮るかのように、電話が切れた。
私は急いで寝室に向かい、クローゼットに掛けてあったパーカーに腕を通し、お財布と車の鍵をバッグに詰める。お風呂はもう済ませてしまっているので、化粧のしていない貧相な顔ではあるが、あんな状態の杏寿郎さんをそのままにしておくわけにはいかない。