第18章 dear my scarlet【コラボ作品】【暖和】
名前を呼んだものの、ジッと顔を見つめられるだけで何も言わない私に、10歳の杏寿郎さんはとても困っているようだった。眉が下がり、なんだか短髪の千寿郎さんが目の前にいるようなそんな錯覚に陥りそうになる。
「…あの、あなたが胡蝶さんがお話していたすずねさんですか?」
杏寿郎さんは、不安な気持ちを胸の奥に隠しながら、私にそう聞いているようだった。
…っだめだめ!杏寿郎さんが困ってる!いくら杏寿郎さんが凄く可愛いからって、いつまでもフワフワしている場合じゃない!杏寿郎さんが元に戻るまで、私が責任を持って10歳の杏寿郎さんを守るんだから!
私は両手でパシッと自分の頬を軽く叩き、邪念を払う(杏寿郎さんがとても不審気な目でこちらを見ていたがそこには気が付かなかったふりをしよう)。
これでよし。
「はい。私がそのすずねです。えっと…まずは隣に座ってもいいですか?」
私がそう問うと、
「はい」
と、先程と同様に10歳の杏寿郎さんはとてもしっかりとした声色で返事をしてくれた。
「ありがとう」
そう言いながら私は杏寿郎さんの隣へと進み、
「失礼します」
そう言って杏寿郎さんの方に膝を向け、杏寿郎さんの隣に正座をする。すると杏寿郎さんも、中庭の方に向けていた膝を私の方に向けてくれ、お互いが正座で向かい合うような形になった。その礼儀正しい行動と、落ち着いた様子に
…流石、私が10歳の頃と全然違う
私は心の中で感心しきりだった。
「改めまして、私は柏木すずねと申します」
そう言いながら私が頭を下げると、
「俺…僕は、煉獄杏寿郎です」
杏寿郎さんもそう言いながら頭を下げた。
「ふふっ。そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
そう言って私が微笑みかけると、杏寿郎さんの肩の力が抜け、ほんのりと笑顔も見せてくれた。
…どうしよう!かわいい!かわいすぎる!
それはもう、もし今私がこの場にひとりきりだったら
"10歳の杏寿郎さんがかわいすぎるー!"
と叫び出していただろうな、と思うほどに。
違う!ダメダメ!
再び思考が10歳の杏寿郎さんの可愛さに奪われそうになり、先程よりも強めに両頬を
パシッ
と叩き、頭を左右に軽く振る。
よし。これで大丈夫!