第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
いつの間に…私、とれだけ寝てたんだろう。
「…っでも!じゃあ、侍女は!?せっかくおつる様がゆっくり出来るようにって私が引き継いだのに!」
私は、自分が
"それなら杏寿郎様の妃になっても良いかも"
と思ってしまいそうになるのを諌めるのに必死だった。
「それについては、心配いりません」
「…っ!」
そうだ。すっかり忘れていたが、この場には杏寿郎様と私だけじゃなくて、おつる様もいたんだった。
そう思いながら、おつる様の声がした方に視線を向けると。
「…?…おつる…様?」
何故かいつもより、ハツラツと、そして嬉しそうな表情のおつる様がそこにはいた。
「このおつるに憧れ、このまま侍女として働きたいと申し出た者が1人おります。杏寿郎様と一度も身体を交えたこともなく、興味もなければ、今後持ちたいと思うこともないと申しておりました」
「それはそれで何やら腹立たしいな」
杏寿郎様がぼそりとそう言う。
「…そんな人…本当にいるんですか?」
私はといえば、
そんなのどうせ私を言いくるめるための嘘でしょう?
なんて思っていた。けれども、
「杏寿郎様にチキンスープのチキンを食べろと言う変わり者がそこにいるでしょうに。だからそんな娘がいても、全くおかしくはありません」
「……」
思わずスーッとあさっての方向を向いてしまう。
「おつるは、嬉しいのです」
「…嬉しい…のですか?」
再びおつる様の方を見た私は、
「元々あなたは私が見つけてきた逸材。謂わば私のお気に入り。そんな自分のお気に入りが、ましてや自他共に認める貧乏な平民の娘が、この国の王である杏寿郎様にみそめられた。まるでお伽噺のようでおつるは久方ぶりに胸がときめくのを感じました。なによりも、いつも義務的に相手を喜ばせようとしていた杏寿郎様が、あんなにも激しく、情熱的に女を抱いた。それはもう、おつるもあと40若ければ抱いてもらいたいと思う程に」
「50の間違いではないか?」
「杏寿郎様は少々お黙りくださいまし」
「………」
かつてないほど饒舌なおつる様に私はポカンと口を開き固まっていた。そしてまさかのおつる様からのごり押しに、いよいよ私は、杏寿郎様の妃にならない為の言い訳が思い付かずにいた。