第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
杏寿郎様は、私を誘惑するかのように左耳に口を寄せ、
「俺の、妃になってくれるな?」
先程よりも更に蕩けてしまいそうな声でそう囁く。
その声に私は、まるで杏寿郎様に催眠術にでも掛けられてしまったかのように首を縦に振りそうになった。
…っだめだめ!
カッと目を見開き、杏寿郎様にまんまと持っていかれそうになった思考を取り戻し、
「無理です!」
そうキッパリと答える。
「…っなんなんだお前は!?何故そんなにも強情なんだ!?この俺の愛だけでなく、お前の好きな金も一緒に手に入るんだぞ!?」
杏寿郎様は、苛立った様子を全く隠すことなくそう声を荒げる。
「人をただのお金好きみたいに言うのはおやめ下さい。…それはともかく、よく考えてもみてください。私は平民の生まれ。だれも杏寿郎様の正妃だなんてお認めになりません。それに、杏寿郎様には夜伽の相手をしてくれる綺麗なお妃様たちが既にいらっしゃいますでしょう?私、たくさんの中の1人は嫌なんです。愛されるならその人のたった1人になりたいのです」
愛する人が自分以外の誰かと睦み合う姿なんて、二度と見たくない。
…あれ?
けれども、私はこの時気がついた。
…もう、あの2人を…こうやくんを思い出しても…辛くない
一方で、杏寿郎様が誰かと夜を共にすることを想像する。
…少し…モヤモヤ…するかも…
私はそんな自分の考えに、驚き固まった。
いやいや。ないでしょ。
そんなのダメでしょう。
私ついさっきまで婚約者に浮気されて
捨てられたって泣きそうになってたのに。
これじゃあ杏寿郎様のことが
好きみたいじゃん。
なりかけてるじゃん。
私…どれだけ簡単な女なの?
一回寝た…
いや数は分からないくらい多かったけど
それだけなのに…好きになるの?
私が心の中で大相談会を開いていると、
「それならばもう解決済みだ」
自身ありげな杏寿郎様の言葉が耳に入り
「…解決…済み?」
私はパッと杏寿郎様の顔を見る。
「あの者達は、確かに俺の夜伽の相手だ。だが妃として迎えていたものは1人としていない。もし子を孕むことがあれば、妃として迎えるつもりであったが、結局は誰もそうはなっていない。元々は奴隷出身の者も多い。後ろ盾をきちんとし、ここを出てもらう手筈はお前が寝ている間にもう済んだ」