第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
「…成る程な。よし。その申し出は受けよう」
「それでは「その代わり、お前はこれから俺の正妃だ」…はい?
」
待って。私は今、杏寿郎様に"お前はこれから俺の正妃だ"って…言われたの?いや…まさかそんなわけないか。
空耳に違いないと結論づけた私は、
「申し訳ありません。ちょっと、上手く聞き取れなくて。もう一度言っては頂けませんか?」
と杏寿郎様にお願いした。
杏寿郎様は私の言葉に、
「…もう一度?」
そう言うと、グッと眉間に深い皺を刻む。
杏寿郎様は
はぁ
と大きな溜息をひとつつくと、
「さっきも言っただろう。何度も言わせるな。侍女のお前は気持ち悪いほど察しがいいくせに、そうでないお前は随分と……まぁそこも可愛いと思ってしまったからな。仕方あるまい」
今度は、眉を下げ、見たことのない甘い笑顔を私に向けた。
「…っ!?」
聞きたかった答えは返ってこないし、なにやら杏寿郎様が私のことを"可愛い"だなんて言っているし、杏寿郎様の笑顔はキュンとしてしまいそうなほど素敵だし、私の頭は完全にキャパオーバーを迎えた。
杏寿郎様は、私の目をジッと覗き込み
「すずねお前は今日から俺の正妃だ」
聞き間違いようのない程、はっきりとそう言った。
私が…杏寿郎様の…正妃?
この国の王、
スルタン様であられる杏寿郎様の正妃?
「いや、無理ですから」
「……はぁ?」
「…っひぃ!」
杏寿郎様の、低く怒りを抑えた声に、私は思わず身震いする。
「お前は…本当に……いやいい。お前は最初からそういうやつだ」
諦めたようにそう言う杏寿郎様の様子が、なんだか私をものすごく馬鹿にしているような気がして
「なんでしょう…その気になる言い方は…」
思わず杏寿郎様の目をジッと睨んでしまう。
そんな私の失礼な振る舞いを、少しも気に留める様子もなく
「俺に向かって、スープの残ったチキンを食えと言うのも、紙を無駄にするなと言うのも、贈り物にはきちんと令状を返せと言うのも、おつるを大切にしろというのも、…何度もその中に欲を吐き出したくなるのも…お前だけだ」
「…っ!」
酷く甘く、優しい声色で、私にそう囁いた。
その表情も声も、まるで私のことを"好きだ"と言っているようで、脳が茹って、溶けていってしまうのではないかと思った。