第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
「この子はすずねちゃんと違ってか弱いから俺が守ってあげなきゃダメなんだ?いつも頑張ってるすずねちゃんの安らげる場所に俺がなるって言ったのはどこのどいつです?一生懸命働いてるすずねちゃんが好きって言っていたのはどこのどいつです?借金なんか気にしなくていいから一緒になろうって言ったのはどこのどいつです?」
あられもない姿の女を、同じくあられもない姿をした彼が隠し、
"別れて欲しい"
と言った後に述べられたのがその言葉達だ。
「仕事ばかりで彼を放っておいた私に非が全くないとは言いません。でもそれも全部、借金を返して、なんのしがらみもなく彼と一緒になりたかったからで…2人で幸せになりたかったからで…」
涙が溢れてきそうになり、一度言葉を止め
フゥゥ
長く息を吐く。
「…そんなことより何より、1番腹が立ったのが、2人が私が声を掛けるまで、コトに夢中で全然私に気が付かなかったって事です。私とする時は…いつもあんなんじゃなかったくせに」
夢中でお互いの身体を求めあう2人の姿を見て
私の出る幕なんてないじゃん
そう思い知らされた。
きっと彼は、私が彼を求めているほど、私の事を求めてはいなかったんだと思う。
「やはり人生において最も大切なものは愛なんかじゃありません。お金ですお金。私に必要なのは愛じゃなくてお金。今後の人生一人で、豊かに暮らしていくための」
こうやくんと違って、お金は私を裏切ったりしない。
「だから杏寿郎様。私、第二のおつる様になれるよう、より一層努力を致します。なので今後ともどうか私をお側に置いてください」
そう言ってお茶から杏寿郎様の顔にパッと視線を向けると、杏寿郎様がなんとも言い難い顔で私をジーッと見ていた。
…どんな…視線?
自分に向けられる、その視線の意味がよくわからず私は思わず首をかしげる。居心地の悪い沈黙がしばらく続き、どうしたものかと思いながら一口お茶を口に含むと、
「…気に食わない」
ようやく杏寿郎様から発せられた言葉がそれだ。
「…何がでしょう?あ、お茶のお代わり、お淹れしますね」
杏寿郎様が言っている意味はよくわからないが、とりあえず空になったお茶を淹れようと杏寿郎様の方に近づこうとした。けれどもその前に杏寿郎様が立ち上がり、ズンズンとこちらに向かって来る。