第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
こうやくんが好きなお茶を買い、私は軽い足取りで2人でたくさん話をしたり、時には身体を交えたり、そしていつかは2人で暮らそうと約束した部屋へと向かっていた。
久しぶりに会えるんだ!たっくさん甘やかしてもらうんだから。
優しい笑みを浮かべ、"すずねはいつも頑張ってて偉いね"と、いつものようにあの温かい手で頭を撫でてもらうことを想像すると、私は自然と駆け足になっていた。
慣れ親しんだ建物が目に入り、走る速度がさらに速くなる。
…っ着いた。
驚き喜ぶ顔が見たいと1人ニヤニヤとしながら扉に手をかけた時
…んっ…あ…あっ…いいっ…!
扉の奥から聞こえてきた、明らかに女性の喘ぎ声にしか聞こえないその声に私の身体はピシリと固まる。その間も、喘ぎ声は止まることなく聞こえてくる。
あ、私…家を間違えたのか。
その考えに至り、私は後退りをし、建物の外観と位置を再確認する。
…合ってる。
けれども、私の願いも虚しく、そこは正真正銘、私とこうやくんの愛の巣になるはずのその場所だった。
どうしていいかわからなくて、私はただ呆然とその場に立ち尽くしていた。このまま、何も知らないふりをして帰ってしまおうかとも思った。でも、
…っだめ。ちゃんと…確かめないと。
両手をギュッと強く握りしめ、私は再び部屋の扉の前に足をすすめた。
…っん…あ…あぁ…!
扉の向こうからは相変わらず耳を塞ぎたくなるような喘ぎ声が聞こえる。
ゆっくり扉に手を添えると
ギィ
と音を立てて、私にとっての地獄が待つ空間へと繋がる扉が開く。
「…っあ…んぅ…こうやぁ…っ!」
「…はっ…気持ち…いい…?」
2人はよほど行為に熱中しているのか、扉が開き、私が入ってきたことにすら気がつかないようだ。
…一体…何を見せられてるの…?
なんとか現実逃避をしようとしても、目の前で知らない女性の身体に溺れているのは、どう見ても私の婚約者だった。
頑張れ。私。
そう心の中で自分に声を掛け、
スゥッと大きく息を吸い
「…っこうやくん!!!」
私は
「……っえ!?すずねちゃん!?」
無情な現実へと向き合う覚悟を決めた。