第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
母はそれを遠慮がちに受け取ると、
「いつも悪いわね。本当だったら、すずねちゃんが自分で稼いだお金だもの。全部自分のために使いなさいって言ってあげたいところなんだけど…」
眉を下げ、心底申し訳ないと言う顔でそう言った。
「もう!何言ってるの?これは家のためだけじゃなくて自分のためにやってるの!借金がある限り、こうやくんと結婚出来ないんだから!私が、私のためにやってるの!」
その甲斐あって、借金は残り半分というところまでやってきた。その辺で見つけてきた仕事をどんなに一生懸命こなしても、毎月ほんの少ししか借金は減っていかなかったのに、杏寿郎様の侍女の仕事についてからは、これまでの事が嘘のように借金を還せるようになった。
「すずねちゃんが…そう言ってくれるのならいいんだけど…」
「いいの!それに、最初はすごく大変だったけど…今では大変だけじゃなくて、凄く楽しいの」
気難しい方だと聞いていた杏寿郎様は、実際にお側に置いてもらうと全くそんなことはなくて、白黒がはっきりしており(はっきりし過ぎといっても過言ではない)、嫌味な部分が全くなく(揶揄われることは時たまあったが)、仕事をきちんとこなせば褒めてくれることもたくさんあった。それはもう、
借金を返済し終えたら、仕事をやめてこうやくんのところに行こう
と決めていた気持ちに揺らぎが発生してしまうほどに。
「そうなの?すずねちゃんが楽しいって言うのであれば…本当にそうなんだろうけど。そういえば、こうやくんには会いに行かなくていいの?」
「もちろん行くよぉ!荷物を整理し終わったら行くつもりなんだけど…大丈夫?」
「いいに決まってるでしょう」
母はそう言ってニコリと微笑んだ。
「ふふっ。ありがとう!実はねぇ、こうやくんには、驚かせようと思って、今日会いに行くってことは秘密にしてるの」
"すずね!どうしたの!?会えるなんて思ってなかった!"
そう言って驚きながらも喜んでくれるこうやくんの顔を思い浮かべると、胸が甘くときめいた。
「あらあら、すずねちゃんったら本当にこうやくんの事が好きなんだから。なんだか私も、お父さんと結婚する前のことを思い出しちゃったわぁ」
そう言いながら右手を頬に当て、ポッとほのかに頬を赤らめる母は、とても可愛らしかった。