第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
この半年で杏寿郎様からそんな風に私の容姿についてお褒めの言葉をいただくのは(いや褒めてはいないのか?)初めてで、思わぬ出来事に
「…何か良からぬ物でも拾ってお食べになりましたか?」
眉を潜め、私が問うと
「俺をお前と一緒にしないでもらいたい」
杏寿郎様は心底嫌そうな顔でそう言った。
「失礼ですね!流石の私だって拾い食いなど……」
しないとは言えず、思わず口をつぐむ。事実、過去にはそうして飢えを凌いできた方もあった。
「さぁ。お母さんがお待ちなんだろう?早く帰っておやりなさい」
おつる様の言葉に、私は慌てて床に落ちてしまった袋を拾い上げ
「それでは、失礼させて頂きます」
お二人に向け頭を下げ、
「たまには羽を伸ばしてくるといい」
「ありがとうございます」
2泊3日の里帰りへと出発した。
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「お母さん、ただいま」
「おかえりなさい、すずねちゃん。なんだか久しぶりな気がするわね」
「そうだね。なにせ3週間ぶりですもん」
久しぶりに帰ってきた家は、相変わらずボロボロで狭いけど、慣れ親しんだ空間であること、そして相変わらず穏やかな笑みを浮かべている母の存在が私の疲れた心と身体を癒してくれるようだった。
部屋の隅に持ってきた袋をボスンと置く私に
「お仕事、どう?お金だけが届けられて、すずねちゃん自身は中々帰ってこないからお母さん心配していたのよ?」
相変わらず縫い物の仕事をやめてくれない母は、自身がが座っていた椅子の上にそれをポンと乱雑に置くと私の方へと歩み寄ってくる。
「ちょっとねぇ…来賓っていうのかな?続いちゃってね。スルタン様もかなりお疲れだったみたいで、自分だけ帰りますとは言えなくてねぇ…あ!でもその分お給金は多めにもらえたから心配しないで!」
そう言いながら私は自分の懐をゴソゴソと探り、
「はい。これ今回の分のお給金!」
普段よりも気持ち重さのある袋を母に向け差し出した。