第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
杏寿郎様の侍女になり、あっという間に半年の月日か経過していた。
「それではおつる様、杏寿郎様のお世話をお任せしてしまい申し訳ございまさせんが、しばしのお暇を頂きます」
仕事が忙しく、3週間ほど実家に帰れない日が続いたが、今日は久しぶりに、2泊3日で実家に帰らせてただくことになっている。
「久しぶりに会うんだろう?お母さんとゆっくり話しておやりなさい」
「はい。ありがどうございます。杏寿郎様。くれぐれもおつる様にご苦労をかけることのないよう、よろしくお願いいたします」
「侍女の癖に君主にそんな口をたたくとは相変わらず生意気な…。まぁいい。そんなめかし込んで、噂の婚約者とやらにでも会うのだろう?」
そう言いながら杏寿郎様は、私のことを頭の先から爪先までじーっと音が聞こえそうなほど見ている。
「ひさびさに婚約者に会えるのですよ?こんな時に着飾らず、いつ着飾れというのでしょうか?」
杏寿郎様の侍女として、普段から清潔感を感じられるくらいの風貌は保つように心がけてはいた。けれども今日は、髪をおろし、化粧の感じも変え、大部分を借金を返済するのに使っていたお給金を少しずつ少しずつ貯め、初めて自分のために買った服を見に纏っている。すべては
"綺麗だね!見違えたよ!"
と婚約者に言ってもらうためにした事だ。
「君主である俺の前にいる時よりも着飾っているとは…何やら腹立たしさを感じる」
不満気に口を尖らせる杏寿郎様は、なんだか駄々をこねている子どものようで可愛らしくもあった。
「何を仰いますか。杏寿郎様は毎日、お美しい女性達と時を過ごし、夜を共にしておいででしょう?あの方々に比べれば私なんぞ、その辺に生えている雑草と同じでございます。綺麗に咲く花々と比べることすら烏滸がましいことでございます」
そう言いながら挨拶のためにいったん隣に置いていた袋を肩にかけていると、
「雑草などではない。見た目の華やかさには欠けるが、お前には凛としまっすぐ太陽に向け咲く花のような魅力がある」
「…へ?」
思わぬ杏寿郎様のお言葉に、口からは間抜けな声が出て
ドサリ
肩に掛けたはずの袋が床に落ちた。