第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
満足に食事が取れない時期が長かった私にとって、いくらお仕えする杏寿郎様相手だとしても、食べ物を無駄にするという行為がどうしても見逃せなかった。
「ならば私にくださいませ!」
私のその発言に杏寿郎様はその端正な顔を大いに歪める。
「それはダメだろう。お前には人間の尊厳というものがないのだろうか?」
「尊厳でお腹は膨れません。お伝えしております通り、私は元超ど貧乏。…お陰様で現在貧乏までのし上がることが出来ましたが。その件に関しましてはありがとうございます」
「別に礼を言われることではない。実際にお前の働きは、目を見張るものがある。俺にとっては嬉しい誤算だな」
おつる様と共に杏寿郎様にご挨拶をした日から1ヶ月ほど経ち、私はすっかり杏寿郎様の侍女としての仕事をこなせるようになった。杏寿郎様は本来であれば沢山の侍女を従えているはずなのだが、とても警戒心が強く、それに加えて杏寿郎様を巡って揉め事が起きることに飽き飽きしたようだ。なので何年もおつる様1人を侍女としてそばに置いていた。それが今となっては、私が主に杏寿郎様にお仕えし、その指導役兼お目付役としておつる様も度々様子を見に来てくれていたのだった。
「まさかお前がここまで卑しいとは思ってもみなかったがな」
「卑しいとは…!いくらスルタンであられる杏寿郎様とは言え失礼でございます!"食べ物を大切にしている"と、そうおっしゃって下さいませ」
呆れた目でこちらを見ていた杏寿郎様だが、
「侍女としてのお前の働きは確かに素晴らしい。流石あの厳しいおつるが選んだだけのことはある。平民の出、ましてや超ど貧乏と聞いた時は驚いたがな」
真剣な表情を浮かべ、お褒めの言葉(最後の貶している部分はなかったことにする)を下さる杏寿郎様に、私は胸が躍るようだった。
「ありがとうございます!これからも精一杯、杏寿郎様の侍女として勤めを果たさせて頂きます!」
"お給金のために!"
という言葉は胸にとどめておいた。
「うむ!頼りにしている。では早速そのスープ皿を下げてくれ」
「それはなりません」
「…口うるさい侍女だ」
「食べにくいのであれば、私が身と骨の部分を分けて差し上げます」
「そこまでいうのであれば仕方があるまい」
そう言って観念する杏寿郎様に
「お任せください!」
私は満面の笑みを向けた。