第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
「おつる。年若い娘は嫌だと、俺は言っていたはずだ」
スルタン様は不満気な様子を隠す事なく、スーパー侍女ことおつる様に向かいそう言った。
「承知しております。けれどもこの娘、年若くとも必ずや杏寿郎様が望むような侍女となります。おつるの目を信じてください」
「その根拠は?」
私を置いてけぼりにし、何やら2人は揉めているようだ。
「この娘、面接で志望動機を聞いた際、何と答えたと思われますか?」
スルタン様はしばらく考えるそぶりを見せた後、はぁと大きなため息をつき、
「どうせいつもと同じだろ?"スルタン様のお役にたちたい""スルタン様に尽くしたい"。いつもそうだ。そしていつも同じ結果を迎える」
心底面倒くさそうな様子でそう言った。そんなスルタン様におつる様は
「いいえ、違います。この子が言ったのは、"お給金が良いから"と、それだけでございます」
と若干笑いを堪えるようにしながらそう言った。
私はと言えば、スルタン様に私の恥ずかしい志望動機が知られてしまい
そんな恥ずかしい事、スルタン様に言わないでよー!
と心の中で絶叫していた。
おつる様の言葉に、スルタン様はチラリと私の方に視線をよこした。
「それが本心とも限らない。ていのいい理由を言って俺に近づき、最終的にはクビにしてきた侍女同様に関係を迫ってくるやもしれない」
スルタン様のその言葉に
ピクリ
と私の右眉の端が反応する。
聞き捨てならない。
「申し訳ありませんが」
怒りから、若干大きくなってしまった私の声が室内に響く。
「私のようなものが無粋に話に加わる事をお許し下さいませ。けれども、スルタン様。先程のお言葉、訂正して頂きたく思っております」
スルタン様は、おつる様から私へと視線を移し、スルタン様の猛禽類のように鋭い目と、私の目がかち合う。
「雇っていただきました以上、そしてお給金をいただく以上、私は自分をその道のプロだと考えております。故に、侍女としてスルタン様にお仕えすると決めた時から、私がスルタン様に関係を迫ることも、好意を抱くことも絶対にございません」
そうやって私は、今までお金を稼いできた。子どもだからと、女だからと馬鹿にされないために。
「働き、お金を稼ぐことは私の人生において最も大切なこと。どうか私を信用してくださいませ」