第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた
「でもねぇすずねちゃん。そのスルタン様って、もの凄く気難しくて、採用した侍女を次々に辞めさせる恐ろしい人だって…隣のおばさんが言ってたのよ?今回の侍女の募集だって、ずっとお仕えしていた侍女の人が高齢になって仕方なくって事らしいわ。そんな人の下ですずねちゃんを働かせるなんて…お母さんすごく心配よ」
顎に手を当て
はぁ
なんて母は呑気にため息をつく。
「あのねぇお母さん。心配も何も、それ以上にいい条件の仕事なんてある訳ないんだから仕方ないでしょ?お願いしたら、週払いでお給金もくれるって言ってたし、お母さんしばらく安静にしてなきゃだめなんだよ?私の心配は良いから、とにかく今はゆっくり休んで!本当はその縫い物だってして欲しくないんだから!」
そう言って母の手元をビシッと指差す私に
「あら?お母さん何にもしてないわよ?」
バレバレの嘘をつく母が、私のいない間なんの問題もなくやっていけるのか、途端に不安になった。
「…とにかく!明日から行くからね!週に1回、家に帰ってこられるから、その間に変なもの売りつけられたり、ものを取られたりしないようにね!隣のおばさんにもお母さんのことよろしくって頼んでおくからね」
「はいはい、わかりましたぁ」
「"はい"は1回!」
「はーい」
まったく…どっちが母親なのかわかったもんじゃないんだから。
そう呆れながらも、母との平和な生活のため、私は明日より"スルタンの侍女"という未知の仕事に就く。
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この方が…スルタン様。
スーパー侍女(御年75歳)に連れられ、私は初めてスルタン様こと杏寿郎様とお顔を合わせた。
「杏寿郎様。この娘が新しく侍女を務める者です」
スーパー侍女に促され、ほんの少し前に進み
「お初にお目にかかります。私、すずねと申します。1日も早く、一人前の侍女としてお仕事をこなせるよう努力させて頂きます。よろしくお願いいたします」
私はスルタン様に初対面の挨拶をした。
「…」
けれどもスルタン様は何も仰る事なく、じーっと私の事を値踏みするかのように見るのみだ。
スルタン様だか何だか知らないけど、挨拶くらいちゃんとしなさいよ
そんなことを思っているとはおくびにも出さず、私はにっこりと愛想のいい笑みを浮かべ続けた。