第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
音の呼吸。なんて素敵な呼吸なんだろう。さぞかし綺麗な音の鳴る技を放つんだろう。そう思っていた。
「音の呼吸っていうより"爆発の呼吸"ですよね?素敵な音が聞けると楽しみにしていたのに、雷の音とあんまり変わらないじゃないですか」
天元さん(師範と呼んだらそんな地味な呼び方するんじゃねえ、と怒られたので仕方なくこう呼んでいる)の姿が見えないのを良いことに、日輪刀とクナイの手入れをしながらそう愚痴る。そんな私に天元さんの素敵な奥様方が、三者三様の反応を見せる。
「すずねさんの言いたいことはなんとなくわかるけど…そんな事を言っているとまた天元様に叱られてしまうわよ?」
「あんたはデカい音が苦手だからね。よくそんなんで鬼と戦えるもんだよ」
「本当、マキオさんの言う通りです。すずねちゃん、私と同じくらいミソッカスなのによく頑張ってます!偉いです!」
え?私、須磨さんと同じ位ミソッカスなの?そんなの初耳なんだけど?この間、階級、丙まで上がったのに?
思わずクナイを手入れしていた手が止まる。
「あんたねぇ。すずねをあんたと同じにすんじゃないわよ」
「え?どうしてですか?」
「すずねの実力は天元様も認めてんのよ!あんたとは違うの!」
今にも喧嘩を始めそうな2人の様子に私が慌てて
「私が強かろうと弱かろうとどちらでも良いんです!とにかく私が言いたいことは、天元さんの呼吸は"音"なんて綺麗なものじゃなくって"爆発"です"爆発"!本人も派手好きなんだからその方が嬉しいんじゃないんですか?」
なんて言った時
ゴチーン!
「…っ痛!!!」
脳天に落とされた容赦ない拳骨に、私は舌を噛みそうになった。
「何が爆発の呼吸だ!…こんのアホがっ!」
いつの間にやらそこにいたのか、頭を押さえながら振り向くと、天元さんが怒りを露わにしながら私の後ろに立っていた。
「「「おかえりなさい、天元様」」」
「…おかえりなさい、天元さん」
「おう。今戻った」
忍びとは、どうしてこうも気配を消して近づくのが上手いのか。天元さんに稽古をつけてもらうようになってから、私もそれなりに気配を消したり、鬼の不意を付くのが上手くなったと思う。けれどもまだ、天元さんには遠く及ばないのが現実だ。
「すずね、お前にお館様から直々の指令だ」