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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第17章 お金が欲しかっただけなのに気がついたら君主の寵愛を受けていた


世の中で1番大切なものは何か。

"愛"?

そんな訳がない。そんなの綺麗事だ。

愛でお腹は満たされる?
愛で教養を養える?
愛で家族や自分を守れる?

答えは否だ。

もし愛だと答えることができるのであれば、それはなんの苦労もせず幸せに育ってきた証拠だ。

この世で1番大切なものは何か。

それは"お金"である。












「お母さん!私やったよ!侍女に選ばれたの!」

"採用"

とデカデカと書かれた紙を片手に、ドアを力一杯開け、転がり込むように家の中に入った。

「あらまぁおめでとう。でもねぇすずねちゃん、嬉しいのはわかるのだけど、そんなに乱暴にドアを開けたらこんなボロ屋のドアなんてすぐに壊れちゃうわ」

そうニコニコと微笑みながら、仕事である縫い物をしているのは私の母だ。母は少し…いや、かなり抜けている部分があり、人よりも少し、…いや、大分穏やかな気質である(穏やかすぎてついていけないと想う事がしばしばある程)。

「だって!あのスルタン様の侍女だよ!たくさん面接に来ている人がいたのに…私が選ばれたんだよ!お給金!すんごいんだから!借金だってすぐに還せるかもしれない!」

私の家には多額の借金があった。母に負けず劣らず穏やかな気質を持った父が、悪い人に騙されて作った借金だ。それでも

"家族みんな、笑って過ごしていれば大丈夫。なんとかなるよ"

と口癖のように言う父の言葉の通り、超ど貧乏ながらも幸せに暮らしていた。

父が過労で倒れて、ぽっくり死んでしまうまでは。

そこからの生活はまぁ酷いものだった。食べる物も着る物もない。借金に追われ、残った微々たるお金で、ただ毎日を、母と娘2人で生きていくのに必死だった。

そのうち私は、幼いながらも自分で仕事を探し、お金を稼げるようになった。雑用と言われる雑用は全てやってきたし、多少の力仕事だって何とかこなしてきた。その甲斐あって、超ど貧乏、からど貧乏位までにはなれた。

数年間はそうして、母と娘2人で協力し合い、少しずつ借金を返済していった。けれども、長年の無理が祟ったのか、今度は母が過労で倒れてしまい、その時から前と同じように働く事が困難になってしまった。

そんな中私の耳に入ってきたのが

"スルタン様の侍女を募集する"

という、なんともお金がたくさん稼げそうな求人だ。


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