第16章 心を込めたお祝いをあなたに【暖和】【煉獄さんお誕生日】
「仕事で使っても良いだろうか?」
「もちろんです!そのつもりでこれを選んですから」
「そうか!肌身離さず大切にさせてもらう」
「ふふっ。そうしてください」
身体を離し、お互いの目をじーっと見つめあった後、
ちぅっ
甘く、優しい口づけをもう一度交わした。
「んぅー!いい香り!」
ゆっくりと白ワインを口に含むと、白葡萄の甘くて芳醇な香りが鼻から抜けていく。
「美味い」
「本当に!お酒はそんなに得意ではありませんが、これはたまぁに飲みたくなるんです」
「このタルトも、評判通りカスタードは甘さ控えめで飽きがこず美味い。ワインと飲むというのも味なものだな!」
「そうですね!杏寿郎さんのお祝いのためのケーキなのに…美味しくて手が止まりません」
もぐもぐとタルトを食べながら飲む白ワインは想像以上に美味しくて、私はいつもよりもほんの少し早いペースでワインが進んでしまい、まだ一杯も飲んでいないと言うのに若干頭がふわふわしていたが。
ふと、隣から視線を感じ、そちらに視線を遣ると
また…さっきの目だ
またもや何か言いたげな顔で、杏寿郎さんが私を見ていた。
「…杏寿郎さん」
「なんだ?」
「…どうかしましたか?」
普段は"そんなこと言わなくてもいいのに"とこちらが言いたくなってしまう程に、なんでもストレートに言っきて私を赤面させるはずなのに、先程からの杏寿郎さんはなんとなく変だ。
「…」
私の問いに、杏寿郎さんは珍しく沈黙し、何も応えない。
「…どうしたんです?私…なにか杏寿郎さんが気にするような事をしてしまいましたか?」
不安になりそう問う私に
「違う!」
杏寿郎さんは間髪なく応える。
「じゃあ尚更、どうしたんです?何かあるのであれば、なんでも言ってください。私、杏寿郎さんの為ならなんでもしますから」
そう言ってキュッと右手で杏寿郎さんの部屋着の裾を掴む。そんな私を再び見つめ
「…何でもか?」
心なしが先程までよりも小さな声でそう言った。
「はい。もちろんです」
愛する杏寿郎さんのためだ。ましてや今日は、その杏寿郎さんのお誕生日祝い。杏寿郎さんが求める事であれば何でもしてあげたいと思う。