第16章 心を込めたお祝いをあなたに【暖和】【煉獄さんお誕生日】
そうしてしばらく抱き合った後、
「…せっかくのケーキがぬるくなってしまいますね。食べましょうか」
すっかり忘れてしまっていたケーキのことをようやく思い出し、
「そうだな。すずねからもらったプレゼントもそろそろ開けたい」
「っそうですよね!つい…気持ちが盛り上がってしまって…すみません」
「謝る必要はない。さて、ではすずねはケーキを切ってくれ。俺はその間にプレゼントを開けさせてもらおう」
「はい」
私はこんな時のためにと前に買っておいたケーキナイフを取りに台所へと向かった。
ナイフを手にテーブルに戻ると、杏寿郎さんの手にはまだ梱包されたままの箱が手にあり、
「まだあけてなかったんですか?」
と私は思わずその手をじっと見てしまう。
「君の前であけたいと思ってな」
「…そうですか」
杏寿郎さんのそんなところがたまらなく愛おしい。
ケーキナイフを手に持ちながら隣に腰掛けた私の姿を確認し、
「開けても良いだろうか?」
杏寿郎さんは嬉しそうに顔を綻ばせながら包装紙のテープ止めされている部分に手を掛ける。
「どうぞ…気に入ってもらえると嬉しいんですけど」
私はほんの少し照れくさくて、ケーキを四つに切り分けながらそう答えた。隣でカサカサと鳴る紙の音に耳をすませながらタルトにナイフをいれていると、包装紙が丁寧に畳まれ、微かに聞こえた音から、杏寿郎さんが箱を開けたのを感じた。
「ケーキはもう切り終えたか?」
「…?はい」
その脈略のない問いに首をかしげながら杏寿郎さんのほうに顔を向けると
がばっ
「…っ!」
「素敵なプレゼントをありがとう」
先程私が杏寿郎さんにしたのと同じように、苦しいくらいに抱きしめられ、私は息が一瞬止まってしまったような気さえした。
私がオーダーしたボールペンは、全体はメタリックな赤色で、ペンクリップと名前の刻印はゴールドにしてもらった。実は特注でお願いし、ペンクリップの見えない内側のところに杏寿郎さんの誕生石である翡翠を埋め込んでもらっている。
杏寿郎さんがずっと健康で、
幸福でありますように。
杏寿郎さんを傷つける全てのものから
どうか守ってくれますように。
こっそりとそんな私の願いを込めさせてもらった。きっと、杏寿郎さんは気がつかないだろうけど、それでいい。