第16章 心を込めたお祝いをあなたに【暖和】【煉獄さんお誕生日】
杏寿郎さんは手に持っていたワイングラスをテーブルに置くと、徐に私の首に両腕を回し、ギュッと優しく抱きしめた。
「昔…俺の誕生日に、贈り物がない代わりにと…してくれたことがあるだろう?…あれをまた…しては…くれないだろうか?」
杏寿郎さんがなんだか恥ずかしそうに言ったその言葉に、私は自身の記憶を過去へと巡らせる。
贈り物がない代わりにしたこと…?
お酒が回っているせいか、一瞬何のことかわからなかった。けれども、
「…っ!」
思い当たる事にたどり着いた瞬間、私の頬は急激に熱を帯び、同時に下腹部がキュンとなる。
え?なになに?杏寿郎さん…お風呂の時からずっとそれが言いたかったの…?やだやだ。可愛い。普段はこっちが恥ずかしくなるくらい何でも言ってくるのに、それを言いたくて、でも言えなくて私のことをジッと見てたの?
私は、零さないようにと気をつけながら手に持っていたワイングラスをテーブルに置き
「…いくらだってしてあげます」
杏寿郎さんが私にしているのと同じように、その首へと両腕を回した。
お誕生日おめでとう。
当たり前のように
この言葉を伝えられる。
その事がとても嬉しい。
来年も、
再来年も、
この先もずっと。
愛する杏寿郎さんに
伝えられますように。
生まれてきてくれて
私と出会ってくれて
ありがとう。
これからもあなたの人生が
幸福で溢れる日々でありますように。
5月10日。
杏寿郎さんのお誕生日。
あなたが生まれた大切な日。
-完-