第16章 心を込めたお祝いをあなたに【暖和】【煉獄さんお誕生日】
「今すぐ開けて中を見たいところだが…」
そう言ってチラリと杏寿郎さんが視線をやったのは、台所がある方向で、
ぐぅぅう
「俺の腹は、もう限界を迎えてしまいそうだ!」
お腹の音を立てながらそう言った杏寿郎さんに、
「…そうですよね!火もかけっぱなしですし、すぐに出しますので座って待っていて下さい」
私は台所の方に小走りで向かった。
「俺も手伝おう」
「え?ダメですダメです!お誕生日のお祝いの食事です!座って待っていて下さい!」
杏寿郎さんは私がそう言っているのにも関わらず、
「2人でした方が早いだろう?」
そう言って当然のように配膳の手伝いをしてくれる。
そんなところも、好き。
炊飯器から炊き立てのご飯をカレー皿に盛りながら、そんなことを心の中で思っていた。
自分で作ったカレーに舌鼓を打っていたはずなのに、
「うまい!」
気づくと私は、毎度お馴染みの声を上げながら、それでいて相変わらず綺麗な所作でカレーを食べ続ける杏寿郎さんをじっと見つめていた。
杏寿郎さんがいなくなってしまったあの日から、こんな日が来ることをずっと、ずっと夢見ていた。恋人として、婚約者として杏寿郎さんの誕生日に"おめでとう"を言えたことは片手で数えられるほどしかなくて、今世で記憶を取り戻してからも、5月10日が来るたびに杏寿郎さんとこうして共に誕生日が過ごせる日が早く来て欲しいと思っていた。それが今、ようやく叶った。
なんのしがらみもなくそばにいられるって…幸せだなぁ。
杏寿郎さんは私の視線が気になったのか、カレーを食べる手を止め、
「どうかしたか?」
と不思議そうな顔で私に問うた。
「っすみません!せっかく食べてるのにジロジロ見過ぎですよね。こうして杏寿郎さんと誕生日を祝えることが…幸せだなってしみじみと思ってしまって…」
慌てて答える私のその言葉を聞いた杏寿郎さんは、右手に持っていたスプーンをカチャリと静かにテーブル置き
「俺も、すずねにこうして誕生日を祝ってもらえることが、心から嬉しい。再会できたあの日から、俺は順番をつけることが難しい程たくさんの幸せをすずねからもらっている」
私の頭を右手で優しく抱き寄せると、それにコツンと杏寿郎さんも頭をもたれ掛ける。