• テキストサイズ

鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第14章 ファインダー越しじゃない貴方と✳︎煉獄さん


ここに着いた時は、あんなにも胸が躍っていたのに。今は、周りの騒がしさが疎ましくて堪らない。珍しく上手に撮れた、動く被写体、煉獄さんの写真も今すぐ消去してしまいたい。

周りはとても騒がしくて、耳障りなBGMを聴いているようだった。


早く帰りたい。


そう思いながら、文化祭用に設置された可愛らしい門を潜ろうとしたその時


「柏木さん!」


聞き覚えのある声に、思わず足を止めた。


一瞬、気づかないふりをしてこのまま帰ってしまおうかと思った。


「柏木さん!」

先程よりも大きく聞こえる声に、そんな事をしたら物凄く後悔することが容易に想像でしてしまう。嫌だなと思いながらゆっくりと振り返ると、


「追いついてよかった!」


笑顔を浮かべ、私の元に駆けてくる煉獄さんの姿が目に入った。その姿は、先程までと何も変わりはないのに、ひどく自分から遠い存在に見えて、私は悲しさで埋め尽くされそうな心を誤魔化すため、奥歯をギリッと噛み締めた。

「メッセージを送ったのだが、既読にならず焦りました!」

煉獄さんは私の目の前で止まると、ニコニコと微笑みながら私を優しく見下ろす。

「…すみません…気がつかなくて」

何とか普通にしないとと作り笑いを浮かべるも、煉獄さんは私の変化に気がついたのか、笑顔から真顔にその表情を変え、私の目を心配気に覗き込んだ。それが、私の心を更に虚しくさせることも知らずに。

「何か、ありましたか?」

「いいえ。なにも……ありません」

むしろ、何もないことが悲しい。

「…柏木さんがそういうのであれば、あまり追求はしません。だが、困ったことがあったらすぐ俺に言ってください!いつでも力になります!」

「…ありがとう…ございます」

煉獄さんは一体、どういうつもりで私にそう声をかけてくれているのだろうか。

私にはわからない。


"友人"という立場ならば、
"恋人"という立場になれないのであれば、
私は少しも欲しくない。


/ 898ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp