第14章 ファインダー越しじゃない貴方と✳︎煉獄さん
ここに着いた時は、あんなにも胸が躍っていたのに。今は、周りの騒がしさが疎ましくて堪らない。珍しく上手に撮れた、動く被写体、煉獄さんの写真も今すぐ消去してしまいたい。
周りはとても騒がしくて、耳障りなBGMを聴いているようだった。
早く帰りたい。
そう思いながら、文化祭用に設置された可愛らしい門を潜ろうとしたその時
「柏木さん!」
聞き覚えのある声に、思わず足を止めた。
一瞬、気づかないふりをしてこのまま帰ってしまおうかと思った。
「柏木さん!」
先程よりも大きく聞こえる声に、そんな事をしたら物凄く後悔することが容易に想像でしてしまう。嫌だなと思いながらゆっくりと振り返ると、
「追いついてよかった!」
笑顔を浮かべ、私の元に駆けてくる煉獄さんの姿が目に入った。その姿は、先程までと何も変わりはないのに、ひどく自分から遠い存在に見えて、私は悲しさで埋め尽くされそうな心を誤魔化すため、奥歯をギリッと噛み締めた。
「メッセージを送ったのだが、既読にならず焦りました!」
煉獄さんは私の目の前で止まると、ニコニコと微笑みながら私を優しく見下ろす。
「…すみません…気がつかなくて」
何とか普通にしないとと作り笑いを浮かべるも、煉獄さんは私の変化に気がついたのか、笑顔から真顔にその表情を変え、私の目を心配気に覗き込んだ。それが、私の心を更に虚しくさせることも知らずに。
「何か、ありましたか?」
「いいえ。なにも……ありません」
むしろ、何もないことが悲しい。
「…柏木さんがそういうのであれば、あまり追求はしません。だが、困ったことがあったらすぐ俺に言ってください!いつでも力になります!」
「…ありがとう…ございます」
煉獄さんは一体、どういうつもりで私にそう声をかけてくれているのだろうか。
私にはわからない。
"友人"という立場ならば、
"恋人"という立場になれないのであれば、
私は少しも欲しくない。