第14章 ファインダー越しじゃない貴方と✳︎煉獄さん
ゴールテープを1番で切ったのは、煉獄さんだった。
きゃあきゃあと騒ぐ女子生徒たちと一緒に、私も心の中で叫び声を上げながら、喜び、他の先生とじゃれ合う煉獄さんの写真を撮り続けていた。
本当に。なんて素敵な人なんだろう。
生徒たちに手を振り去っていく煉獄さんの姿が見えなくなったのを確認し、私は撮影した写真の成果を確認するため画面を操作する。
ゴールを見据える真剣な表情。
手足を全力で動かすほんの少し苦しそうな表情。
ゴールテープを切った姿。
先生たちと笑う少年のような表情。
そこには、私が知らない煉獄さんの表情がたくさん写っていた。
いつもみたいに、煉獄さんに写真の成果を見てほしくて、私は慌てて立ち上がり、先程煉獄さんたちが去って行った方に急ぎ向かった。
人混みの向こうに、先生や生徒たちと話をする煉獄さんの姿が視界に入り、その姿を見るだけでドキドキと胸に心地よい甘さが広がった。その時、
カシャン
あ、私ったらまたレンズの蓋を…
癖でポケットに入れていたレンズの蓋を落としてしまい、それを拾い上げようと私は足を止めた。
「今日の煉獄先生、めっちゃ気合い入ってたねぇ」
「ねぇ!まさか宇髄先生に勝っちゃうなんて!格好よかったぁ…」
「私、煉獄先生が宇髄先生と話してるの偶然聞いちゃったんだけど…なんか、"宇髄に勝ち、彼女に思いを告げる!"なぁんて言ってたのよ!」
女子生徒たちの会話に、
それって…まさか…私のこと?
と、頬に熱が集まった。
けれども、
「えーっ!だったら煉獄先生負けた方が良かったぁ!意中の相手ってきっと、あのピンクの髪の、おっぱいが大きい、もんの凄い可愛い美大生とやらでしょう?」
その言葉にスーッと身体が冷たくなる。
「今日も来てたしねぇ!まぁあんな可愛らしい人ならしかたないかぁ」
「悔しいけどその通り!あぁあ!これで煉獄先生も人のものかぁ」
ノロノロとした動作でレンズを拾う。
そっか。そうだよね。あんなに素敵な人が、私を好きになってくれるはず…ないよね。
先程までの甘やかな気持ちが、あっという間に真っ黒で塗りつぶされる。
…帰ろう。
自惚れていた自分が、恥ずかしくて、情けなくて、リュックにカメラを突っ込み、私は人混みを避けながら校門へと早足で向かった。