第14章 ファインダー越しじゃない貴方と✳︎煉獄さん
「虫に刺されたら出来るだけ早く流水に当て毒を流した方がいい。痛みの方は大丈夫ですか?」
「は…はい…そこまで…痛みは…あの…大丈夫です…」
私は刺された患部よりも、遥かに自分の胸の高鳴りの方が気になっていた。
「それは良かったです」
そう言いながら男性は、ボディーバックの中から取り出したタオルで私の手を丁寧に拭いた。
ドキッ
ニコリと微笑まれ、私の胸は更には高く大きく音を立てる。
「もし腫れるようであれば、きちんと医者に行くことをお勧めします」
「…はい…あの…ありがとうございます…」
「どういたしまして!それでは、俺はこの辺で失礼させてもらいます!お大事にして下さい」
そう言って颯爽と走り去る背中を、私はただただ呆然と見つめ続けた。
また、日曜のこの時間に公園に来れば…あの人に会えるかな?
この日私は、蜜蜂らしき虫に左指を刺され、特徴的な髪型と、眉を持つ、瞳の綺麗な素敵な男性に、恋心を刺されたのだった。
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その翌週。普段は2週続けて朝から撮影に来たりはしない。それでも、
"もしかしたら、またあの男性に会えるかもしれない"
そう考えると、自ずと目は覚めてしまうし、仕事の疲れを取らなくちゃという考えよりも、もう一度会いたいという気持ちの方が先行して、森林公園に行くことに気持ちが向いてしまうのだった。
それでも、その日は会えなくて、景色、自然の写真を撮るのは確かに楽しくても、どうにも心は満たされてはくれない。
そのさらに翌週。
これで会えなかったら、縁がなかったと思って、もうあの人のことは忘れよう。
そんな思いを胸に、私は再び同じ時間に森林公園を訪れた。
着いて早々、辺りをグルリと見回したが、あの男性はおろか、だれ一人として見当たらず、私は
はぁ…
と大きな溜息をつく。
そう簡単に…行くわけないよね。縁がなかったんだ。それに…会えたからと言ってどうこうなれるわけでもないし。
そう自分に言い聞かせ、せっかく早起きしてきたのだからと自分の首から掛けている愛用のカメラをひと撫でし、レンズを外すと、それをポケットに突っ込み、被写体を探すため公園を歩き回ることにした。