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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】


杏寿郎さんは私からほんの少し身体を離し、右手を私の頭に添えながら

「君さえよければ俺の元で鍛えてやりたいと思っているのだが、どうだ?」

私にとってその提案は願ってもないものだった。それを飲めば、私はたくさんの時間を杏寿郎さんと共にでき、尚且つ強くなれる。けれども

「そう出来たら…すごく嬉しいです。でも…お断りさせてください」

私の答えに、杏寿郎さんのその特徴的な眉がピクリと動く。

「私…天元さんの所に戻らせて欲しいと、稽古を…付けて欲しいと、お願いするつもりです」

顔を上げ、杏寿郎さんの端正な顔を見つめる。

音の呼吸は雷の呼吸の派生。もう一度、一から天元さんに鍛えもらうことで、私の呼吸も、きっと今より深く、強くなるはず。音を頼りに戦えなくても、培った経験と、鍛えようによっては感覚のほうを鋭くし、ゆくゆくは補えるようになるかもしれない。雛鶴さんマキオさん須磨さんに教わりたいこともまだまだある。


私にはまだまだ出来ることがある。
諦めてしまうのには、まだ早い。


「そうか。俺としては少し寂しくもあるが、適切な判断だ!宇髄ならきっと君を強い剣士へと導いてくれる!」

「はい。でも……もし、また迷うことがあったら…杏寿郎さんに…甘えに行っても良いですか…?」

自分で言っておいて、酷く恥ずかしさを覚え私は杏寿郎さんから視線を外す。杏寿郎さんは目を丸くし、キョトンとした後、再びパッと太陽のような笑顔を浮かべ

「もちろんだ!いつでも来るといい」

愛おしいと言わんばかりの視線を私へと向けてくれた。

「…ありがとう」

私は杏寿郎さんとの距離を詰め、自らその首に腕を回し目をほんの少し薄めながら唇を突き出し口づけを強請る。

そんな私の顔を杏寿郎さんは眉を下げ、優しい瞳で見つめ、


ちぅ


優しく、甘い口づけを私の唇に落とした。


ゆっくりと杏寿郎さんの唇が離れ、目を開くと、その燃えるような炎の瞳と目があう。


この瞳が。
声が。
手が。
心が。
好き。
大好き。
余すことなくこの気持ちが全部伝わればいい。


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