第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
「…どうして…そこに…?」
もしかして、帰る家がない私をそこに住まわせるつもりなの?…そこまで甘える事は…出来ない。
そう思い私はピタリと足を止める。
杏寿郎さんはクルリと振り返り、私の目をじっと見つめた。その様子から、何かきっと大事なことを言われるのだろうと、私は杏寿郎さんのそれをじっと見つめ返す。
「すずね」
「はい」
どんな言葉が紡ぎ出されるのか、私の胸が緊張からドキドキと大きな音を立てる。
「君はもう、隊士に戻る気はないのか?」
"隊士に戻る"
天元さん達に会いに行く道すがら、杏寿郎さんの大きな背中を見つめずっと考えていた。自分を好きだと、ただそばにいてくれるだけで良いと言ってくれる人がいる。それだけで私は、これからも私でいられる。けれどももし、その人が、杏寿郎さんがいなくなることがあったら?…そんなことは考えたくもない。それでも、もし本当に起こってしまった時、私はまた、何もかも投げ出し、逃げ出し、自分を見失うのだろうか。
そんな事はもう絶対にしたくない。
「許されるのであれば…私はまた、鬼殺隊士として…戦いたいです」
自分の心で、
自分の脚できちんと立ちたい。
これから杏寿郎さんのそばに
いるのであれば
誇れる自分でありたい。
杏寿郎さんは私のその言葉を聞き、
「…すずねならそう言うと思っていた」
ニッコリと、太陽のような笑顔を浮かべながらそう言う。そして私の背中に腕を回し、私の身体をギュッと抱きしめた。
「俺はそんな君が好きだ。本音を言ってしまうと、ただの恋人として、そばにいて欲しいと思う気持ちもあるが、君は君が信じる道を進んで欲しい」
私も杏寿郎さんの大きな背中に腕を回す。
この暖かな背中にずっと、ずっと触れていたい。
「はい」
それでも、迷いながら、悩み立ち止まりながら、私はきちんと私の道を進む。そこの道がいつか、杏寿郎さんの道と繋がることを信じて。