第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
そうしてしばらく、私と善逸が蝶屋敷の入り口で抱き合いながら泣いていると、
「…っひぃぃぃい!!!」
パッと顔を上げた善逸が、私の身体から手を放し、私の手からも逃れようと暴れ出す。
「え?なに?どうしたの?」
そう聞きつつも善逸から手を離さず、その私より少し上にある顔を見上げる。
「君たちの姉弟愛は十分理解した。だがしかし、あまりにも長くくっつきすぎではないだろうか?」
後ろから聞こえてきた声に、私は思わず成る程と1人心の中で納得した。それでもまだ善逸から手を離すことなく、首だけ振り返り
「あのですね杏寿郎さん。善逸は私の弟弟子ですよ?そんな風に怒らなくってもいいじゃないですか」
「そそそそうですよ!そんな怖い音…出すのやめて!」
善逸にはそんな音が聞こえているのか。どうりでこんなに怯えているわけだ。
内心、"善逸にやきもちを焼くなんてかわないいな"なんて思いながら杏寿郎さんの顔を見る。
「わかっている。だが、嫌なものは嫌だ!」
"嫌なものは嫌だ"
子どもか。
「じゃあね、聞きますけど…杏寿郎さん、たしか恋柱様と師妹関係でしたよね?」
「ああそうだ」
「私が杏寿郎さんと恋柱様がくっついてるのを見て、"私の恋人にくっ付かないで下さい!"なんて言ったらどう思います?」
これを言えば杏寿郎さんは確実に引き下がるだろう。私はそう思う思っていた。けれどだ、
「俺は甘露寺とくっついたりしない!まして君達のように抱き合ったりしない!!」
そんな話が通じる相手ではないらしい。
「…っだから!もしもの話です!想像してみて下さい!」
「起こり得もしないことを想像することは出来ない!」
「…っもう!相変わらず話の通じない人ですね!」
「とにかく離れてくれ!」
「いやです!」
「どうでも良いけど…俺を巻き込まないでよぉぉぉお!」
私と杏寿郎さん、そして巻き込まれた善逸とのやり取りは、
"いい加減にしてくれませんか?"
と怒りを耐えた表情で、胡蝶様が玄関にやってくるまで続いたのだった。