第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
"伊之助様のおかえりだぁぁあ!"
聞き覚えのある、見た目に反して非常に野太い声が玄関の方から聞こえ、私はその声にバッと椅子から立ち上がる。
伊之助君が帰ってきたっていうことは…善逸も…?
そう思っていると
"善逸!どうして止まるんだ!善逸もわかってるんだろう?この匂いは…すずねさんの匂いだって!"
そんな炭治郎君の声が聞こえ、やはりその場に善逸がいるんだと私は確証を得る。
「胡蝶様!すみません…っ私、善逸の所に行かないと…」
「私の話はもう済んでいますので。どうぞ行って下さい」
「ありがとうございます!」
私は最期にもう一度胡蝶様に頭を下げ、
「すみません!また後で」
「わかった」
杏寿郎さんにそう告げると、急ぎ、蝶屋敷の玄関の方へと走った。
玄関にたどり着いたそこにいたのは、やはり想像していた通りの3人。
伊之助君は私の姿を確認すると、
「あ!おいお前!一体どこに隠れていやがった!この俺様の目を掻い潜ろうだなんて100万年早いんだよ!」
見つけられなかったくせにこの子は一体何を言っているのか?一瞬そちらに思考を持っていかれそうになるものの、騒ぐ伊之助君の向こう側に見えた善逸と、その背中を押している炭治郎君の姿が目に入り、私の心はギューッと音を立て締め付けられる。
「すずねさん!元気そうで良かった!」
炭治郎君は善逸の背後からヒョイと首を出し、私に向かって笑顔でそう言った。
「ただいま。色々心配かけちゃって…ごめんね」
「いいえ!すずねさんがこうして元気に戻ってきてくれれば、俺は全然かまいません!でも…」
そう言いながら、炭治郎君は、未だにその場から動こうとしない善逸の顔をチラリと伺い見る。
「炭治郎君」
「はい!」
「悪いんだけど…善逸と、2人にしてもらっても良いかな?」
私がそう問うと、
「もちろんです。善逸、いつまでも臍を曲げてないで、すずねさんときちんと話をするんだぞ?」
いかにも"長男"と言う言葉を残し、善逸の肩を優しくポンと一回叩き、
「伊之助行くぞ!」
「俺様を引っ張るんじゃねぇ紋次郎!」
伊之助君の腕を引っ張り屋敷の奥へと去っていった。
その場に残ったのは、善逸と私の2人。どちらも話し出せず、沈黙がしばらく続く。