第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
正面に向き直った際、パッと胡蝶様の大きくて可愛らし瞳とぶつかった。
「柏木さんにひとつお願いがあります」
「私にお願い?…私でできることであればなんでもしますが…なんでしょう?」
「お願い、と言いますか、正確にはお伝えしたいことと言った方が良かったですかね。私の継子のカナヲのことです」
パッと頭に浮かんだ、胡蝶様の継子である、胡蝶様に負けないくらい可愛らしい容姿を持った栗花落さんの姿。それと付随して、頭に浮かんでしまったあの日の苦い出来事。
「…っ…栗花落…さん…ですか?」
ギュッと心臓がきつく締め付けられる感じがした。
「はい。本来であればあまり私が口を出すべきことではないのですが、カナヲにとって今はとても良い時期なのでお伝えしたいと思いまして」
「…もしかして、栗花落様から…私のことについて何かお聞きになっていますか?」
私が様子を伺うように胡蝶様を見つめると、
「その件については、俺から話そう」
背後から聞こえた杏寿郎さんのその言葉に、私は再びそちらを振り向いた。
杏寿郎さんの口から何が語られるのか。私の心臓はドクドクと大きく波打ち、息も少し苦しくなった。杏寿郎さんはそんな私の様子に気がついてくれたのか、私の両肩にその手のひらを置いた。
「君に心無い言葉を浴びせた者たちがいると教えてくれたのは、胡蝶の継子だ」
「…そう…なんですか…?」
確かにあの時、確実に栗花落さんと目があった。けれども、私が知っている栗花落さんはわざわざそれを杏寿郎さんに伝えるような印象ではなかったし、そもそも私と杏寿郎さんが恋仲だなんてことを知っていたとは思えない。私を迎えにきてくれた時の言動から、なんとなく私に何が起こったのか杏寿郎さんは把握しているんだろうなとは思っていた。けれども、まさかそれが栗花落さんから聞いたことだとは正直言うとあまりピンと来ない。
「正確に言えば、胡蝶の継子が竈門少年に話したのを聞いた」
「…炭治郎くんですか?」
栗花落さんから炭治郎くんに…一体なぜ?