第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
そのまましばらく雛鶴さん、マキオさん、須磨さんと縁側に腰掛けお茶を飲みながら話を続けていると、
「失礼する!」
え?今の声は…絶対に杏寿郎さんの声だよね?
玄関の方から愛おしいその人の声が聞こえ、私はそちらの方へと顔を向ける。
「俺が呼んだ」
天元さんはそう一言だけ言うと、杏寿郎さんを玄関に迎えにいったのか、ゆったりとした足取りで去っていった。
「すずねちゃん、ここ以外にも行くべき場所が…会うべき人がいるでしょう?」
雛鶴さんの言葉で、頭に浮かんできたのは、黄色いタンポポのような頭を持つ、私のかわいい弟弟子の顔。
「あいつ。すんごい泣いてたし、それ以上に怒ってたんだよ?私達はもう良いから、会いに行ってやんな」
「そうです!もの凄くうるさかったんですよぉ!今は蝶屋敷にいると思うので、煉獄様と行ってきてください!」
私がいなくなったことに、1番最初に気がついてくれたという善逸。私と同じような心の痛みを抱えているのを知っていたのに、知っているにも関わらず、それを善逸にしてしまった。もしかしたら、許してもらえないかもしれない。それでも
「…はい…善逸のところに、行ってきます」
何を言われたって構わない。私は善逸と会って、その顔を見て、きちんと謝りたい。
そう心から思った。
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「あらあら。随分とお久しぶりですね」
胡蝶様は私を見るなり、相変わらずお美しい笑顔でそう言った。心なしか、言い方が刺々しいと思えたのも、治療がまだ完了しないうちに投げ出してしまったんだ。自業自得。
「また診せにくるようにと言われていたのに…あれっきりになってしまい申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げる私に
「私は別に構いません。ですが…心配をかけた人たちにはきちんと謝るんですよ?」
そう言って、優しい微笑みをその顔に浮かべた。
「はい。必ず…」
「では診察を始めます。けれどもその前に、煉獄さんをお呼びした方がよろしいのでは?」
「…」
廊下で待っていて欲しいとお願いしたところ、ものすごく不満そうな顔で私を見てきた杏寿郎さんの先程の顔が頭に浮かんだ。確かに私の口から説明するより、胡蝶様から説明を聞いた方が二度手間にならないような気はする。けれどもあまり杏寿郎さんを巻き込みたくはない、そう思う自分がいた。