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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】


「すずね。お前、家に帰ってきた時、何て言うかすらも忘れたのか?」



「……え……?」



一瞬何を言われているのか理解ができなかった。


"家に帰ってきた時に何と言うか"


頭の中で、天元さんに言われた事を反芻し、導き出した答えは一つ。

ブワッと奥の方から一気に涙がせりあがり、先程堪えたはずの涙がボロボロと両目から止めどなくこぼれ落ちる。

「…っ…私が…それを……言って…いいん…ですか…?」

天元さんが私をじっと見る。そして、フッと厳しい表情を崩し、笑顔になった。



「ダメなわけあるか…馬鹿すずね」



「…っ…ただいま…戻りました…っ!」



私が部屋の奥まで聞こえるようにそう言うと、

「「すずねっ!」」「すずねちゃん!」

バタバタと普段はあまり聞くことがない三つの足音がこっちに向かって近づいてくる。

「…っ雛鶴さん!マキオさん!須磨さん!…ごめんなさい…っ…ただいまぁ…!」

「っ遅いんですよ!遅すぎるんですよぉ!」

ぎゅっと3人に強く強く抱きつかれ、

…っ窒息しそう

あまりの圧にとても苦しかったが、それ以上に幸せだった。

「すずね!あんたは本当に…どうしようもないやつだよ!」

どうしてこんなにも簡単なことに気が付かなかったんだろう。

「すずねの好きなおやつ、ずっと残してあるの。ダメになっちゃうから、はやく食べてちょうだい」

天元さん、雛鶴さん、マキオさん、須磨さんと5人で過ごしたこの家も、確かに"私の家"だった。





須磨さんに泣かれ、マキオさんに怒られ、雛鶴さんに優しくお説教され、どろどろに甘やかされた。天元さんはといえば、

"嫁たちに全部言われちまったからなぁ。俺からは何も言うことはねぇ"

と言われてしまった。けれどもその代わりに、柱を引退しても尚、その太さを保った右腕が、私の頭をグッと引き寄せてくれたのだった。


私にもう、涙を止める術なんてあるはずがなかった。


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