第13章 世界で1番耳心地のいい音【音好きシリーズ】
いつまでもここに突っ立っていても…何も変わらない!
そう思い、扉に手をかけたその時、
ガラッ
「…え?」
まだ何の力も入れていないはずの扉が、勝手に開き、
「遅えんだよ。この鈍間」
目の前には、私をじっと睨むように見る、"元師範"である天元さんの姿がそこにはあった。
「…っ…」
全然…気がつかなかった。
驚き、戸惑い、喉に何かが詰まってしまったかのように言葉が出てこない。それでも、私には言わなくてはならない、言うべき事がある。
ふぅ、と一回息を吐き、ぎゅっと手を握り締める。
「…あの…天元さん…」
「なんだ阿呆弟子」
「…勝手に…いなくなって…鬼殺隊も辞めて…ごめん…なさい…」
言葉と一緒に、涙が溢れ出そうになった。けれども、
"泣けば許してもらえる"
そんな風に思っているとは思われたくなくて、必死にそれが溢れてしまいそうになるのを堪えた。そんな私に向かって天元さんが投げかけたのは
「違うな」
の一言。
違うって…なにが?
意味を何とか汲み取ろうと、天元さんの顔をじっと見るが、やはりわからない。
「…違うって…何がです?」
そう問うた私に、
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…ここまでとはな。流石に派手派手な俺も知らなかったぜ」
首を左右に振りながら、心底呆れたと言わんばかりの表情で天元さんが言った。
そこまで馬鹿って言わなくても。
心の中で文句を言いながら、天元さんが何を言わんとしているのかを再度考えてみるも、これだと言う答えがどうしても見つからない。
「……」
「ったく。呆れちまう程鈍間だ」
言葉の通り、心底呆れた声でそう言った天元さんに、やはり許してもらえないのかと思わず一歩後退りをする。