第2章 虎のような私の英雄✳︎煉獄さん
そう言いながら頭を下げ、自分の名刺をスッと両手で差し出した。
2人の間に、
シーン
と沈黙が流れる。
その間私の心臓はドクドクと大きな音を立て、顔も真っ赤に染まっているのが自分でわかるほど熱くなっていた。名刺を持っている手も小刻みに震えていた。
「すまないが、それは受け取れない」
その拒絶の言葉を聞き、スッと沸騰するのではないかと思う程熱くなっていた私の体温が下がった。
仕事中にこんなこと言われて…当たり前か。
「っそうですよね!すみません…突然こんなこと言って…迷惑でしたよね」
震えそうになる声を抑えそう言い、私は今度こそ煉獄先生に納品受領書を差し出した。
「あの…次からは、いつもの者が来ますので!先程のことは…是非忘れてください」
悲しさと羞恥を隠すため、やけに饒舌になる自分が凄く嫌だった。
煉獄先生はスッと私が差し出した納品受領書を受け取り、壁を使ってそれにサインをしていた。
一刻も早く受領書を受け取りこの場を去りたい。
そう思いながら、煉獄先生が履いているあの日と同じこげ茶色の革靴を見つめていた。けれどもサインに手間取っているのか、煉獄先生は中々受領書を返してくれなかった。
「待たせてすまない」
しばらく待ち、ようやく煉獄先生は私に受領書を返してくれた。
「…ありがとうございます。…それでは失礼します」
踵を返し帰ろうとする私の手を、パッと煉獄先生が掴んだ。
「…君の、会社の名刺は欲しくない。だがその代わり、俺の"個人的な連絡先"を受け取ってほしい」
「…え?」
言われている意味が理解できず、振り返った私は首を傾げ煉獄先生の目を見た。
「その紙をよく見て欲しい」
その紙とは、先ほど返してもらった受領書のことだろうか。そう思いながら、左手に持っていた受領書を見てみると
「…っこれ…」
受領書に付箋が貼ってあり、そこには
"煉獄杏寿郎 080XXXXXXXX ID.KYO510"
と書いてあった。
バッと顔を上げ、煉獄先生の顔を見ると
「君はさっき、会社の名刺を俺にくれただろう?あれでは俺は君と個人的なやり取りが出来ない。だから連絡するならこっちだ」
と頬をほんのり赤く染めながら私に向かって笑いかけてくれた。
「…もらって…良いんですか?」
「うむ!家に帰ってからでいい。連絡をくれると嬉しい」