第2章 虎のような私の英雄✳︎煉獄さん
「します!会社が終わったらすぐ!」
「あぁ!待っている。それでは」
煉獄先生はそう言うと、職員室の扉を開けて中に入る。けれど扉を閉めるため再びこちらに振り向くと、
また
と口パクで言い、ニコリと微笑んだ。
パタリと完全に扉が閉められ、私は思わずその場にしゃがみ込んだ。
「…どうしよう…嬉しくて…死んじゃいそう」
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仕事が終わるとすぐ、メッセージアプリで教わったIDを検索した。すると煉獄杏寿郎と検索結果が表示され、私はすぐさまメッセージを送信した。
それから毎日2、3通だが絶えず連絡を取り合い、週末にご飯を食べに行くようになり、お付き合いに発展するまでにはそう時間はかからなかった。
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今日私と杏寿郎さんは、初めて電車でお出かけをする。
「すずねはここに座るといい」
杏寿郎さんはそう言って私を1番端の席に座らせた。
「俺はここだ」
杏寿郎さんが座ったのは私の左隣。そうすると私の右側には手すり、左側には杏寿郎さんと挟まれるような形となりあの時と違って誰か見知らぬ人が隣に座る心配は全くない。
「ふふっ。ありがとうございます」
あれから一度も痴漢に会うことはなかった。それでもあの嫌な出来事を忘れる事は出来ないし、たまに思い出して心が濁る事がある。それでも杏寿郎さんがそばにいてくれれば、そんな事も忘れる事ができた。
「あまりこの件については触れたくはないのだが、今思い出してもあの男は極めて腹立たしい」
杏寿郎さんはそう言って私の左手をぎゅっと握った。
「すずねの身体に触れる権利があるのは俺だけ。時を戻し、あの男が君の隣に座る前に俺が座りたい」
そう言う杏寿郎さんの目は真剣そのもので、私はそんな杏寿郎さんが可笑しくて、そして可愛くて堪らなかった。
「そう出来れば良いですが、残念ですがそれは不可能です。それに、あれがあったからこそ私は今こうして杏寿郎さんと過ごすことが出来るんです。皮肉ですね」
「うむ。納得はいかないが君の言う通り。だがもうあんな思いを君にさせるつもりはない。俺が必ずや君を守る」
「ありがとうございます。これからもずっとよろしくお願いします」
嫌な思い出も
あなたが隣にいれば大丈夫。
完