第12章 愛おしい音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
ガラリと扉を開けると
「おはよう!いい朝だな」
いつも通り、口角をほのかに上げた杏寿郎さんがそこには立っていた。
「おはようございます。いい朝ですね…と言いたいところですが、今何時だと思ってるんです?いくらなんでも来るのが早すぎです。ご近所迷惑ですし、もう少し声を抑えてください」
「わはは!すまない!君に会えると思うとおちおち布団で寝ていられなくてな!怒られるだろうとは思っていたが来てしまった」
そう言って満面の笑みを浮かべる杏寿郎さんに
…やだ…嬉しい
不覚にも、私の胸は大きく高鳴り
「…そう…ですか…」
頬がポッと熱を帯び、恥ずかしさから視線を斜め下に下げた。
そんな私に杏寿郎さんはグッと鼻がくっついてしまいそうなほど顔を寄せ、
「うむ!…可愛らしい」
そう言って、眉を下げ優しく微笑んだ。
「…恥ずかしから…やめて下さい…」
嬉しくてたまらないのにそんなことを言ってしまう私は、相変わらず素直からは程遠いが、少しずつ、
この溢れてしまいそうな程の"杏寿郎さんへの好き"を伝えていけたらいい
とそう思った。
奥さんと、杏寿郎さんに背負られたご主人を見送り、いつもと同じように店を営業していると、あっという間に閉店の時間がやってきた。
お店を閉め、裏で片付けをしていると。
「ただいま戻った!」
と杏寿郎さんの建物全体に聞こえてしまいそうなほどの大きな声が響き、その声に反応した奥さんが、持ってたザルを半ばぶん投げながら玄関の方へと駆け足で去っていった。私もザルを拾い、仕込み用のテーブルにそれを置くと、奥さんの後を急ぎ追う。
「…よかった…よかったよぉ…」
辿り着いたその先では、
「すまん…心配かけたな…」
奥さんと旦那さんが、お互いの身体をしっかりと抱きしめ合いながら泣いていた。
私は、その姿をそこから少し離れた場所で見守っている杏寿郎さんの元へ、二人の邪魔にならないようゆっくりと近づく。
「…お疲れ様でした」
「2人のあの姿が見られたんだ…造作もないこと」
杏寿郎さんはそう言って、目を細め、2人を優しい瞳で見つめていた。
「はい。本当に。…ありがとう、杏寿郎さん」
これからも、あの夫婦が仲良く、そして元気にこの店を続けられる未来がきっと待っているに違いない。