第12章 愛おしい音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
「鬼はいる。ご主人の身体にはきっと鬼の毒か何かが残っているに違いない」
「鬼の…毒…?」
「俺の仲間にはそれを治療することを専門とする者もいる。こちらに来てもらってもいいが…恐らく俺が背負って連れて行った方が早い!夜が明け次第、ご主人をそこへ連れて行っても構わないだろうか?」
杏寿郎さんの言葉を聞いた奥さんは、私の方に顔を向け
「…あの人…治るのかい…?」
声を震わせながらそう問うた。
私は立ち上がり、奥さんの隣まで移動し、そこに腰掛けその手を取る。
「…っ治ります!きっと胡蝶様なら…すぐにでも解毒薬を調合してくれます!杏寿郎さんに…私たちにどうかご主人を任せてください」
奥さんは少し考えるそぶりを見せた後、
「…すずねちゃんがそう言うんだ…あの人のこと、どうかよろしく頼むよ…っ!」
そう言って、私の手を力強く握り返した。
「よし!そうと決まればすぐに文を飛ばそう!すまないが紙と筆を借りてもいいだろうか?」
「あぁ!もちろんだ!」
奥さんは立ち上がると、奥の部屋へと紙と筆を取りに行ってしまった。
私は再び立ち上がり、今度は杏寿郎さんの隣に拳一つ分間を開け腰掛ける。
「…きっと…よくなりますよね…?」
杏寿郎さんはそう問うた私の腰に腕を回し、グッと強く引き寄せると、私と杏寿郎さんにある隙間をあっという間に無くしてしまった。
「うむ!君もよく知っての通り胡蝶の腕は確かだ。必ず良くなる!」
杏寿郎さんがそう言うなら、きっと間違いない。
「…はい」
私は杏寿郎さんの左腕に、すりすりと頭をすり合わせ、その確かな暖かさに心が安らいだのだった。
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夜があけ、空が白み始めた頃。
「お邪魔する!」
杏寿郎さんのその大声で、私は気持ちのいい眠りの世界から強制的に引っ張り上げられた。
こんなに穏やかな気持ちで目が覚めるの…いつぶりだろう。
そう思いながら起き上がり、窓を開け、外を見るともう間もなく太陽が完全に顔を出しそうな所だった。
「いくらなんでも…早すぎでしょう」
嬉しさ半分呆れ半分でそう言いながら、そばに置いておいた羽織を肩にかけ、私は玄関先へと向かった。