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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第11章 もう聞こえない【音好きシリーズ】


「ありがとうございました」

「じゃあねぇ。またくるよぉ」

3日間、特段問題もなく、そしてお店に迷惑をかける事もなく給仕の仕事をこなし、もう間も無く店じまいの時間を迎え明日からまた通常の仕事に戻る。

店内にいた今日最後のお客さんである常連のおばあちゃんを外まで見送り、"本日おしまい"の看板をかかげると、私は再び店の中に戻った。

先程までおばあちゃんがいたテーブルにある湯呑みとお皿がのったおぼん持ち上げた時、

ガラッ

と音を立てて店の扉が開いた。

「すみません。今日はもう店終いでして…」

おぼんを持ちながら振り返った先にいたのは



「承知している」



「…っ!」



会いたくて。

会いたくなくて。

忘れたくて。

忘れたくなくて。

2度と会えない、会わないと思っていた愛おしい恋人…とはもう呼んではいけない人の姿が。

スルリと私の手からおぼんが落ち、

「…あっ!」

割れちゃう

そう思ったのに、氷のように固まった身体は動いてはくれなくて、迫り来る苦手な音に耳を塞ぎたくなった。

けれども

「…っと、危なかったな」

杏寿郎さんはその反応速度の良さで、湯呑みもお皿も、両方とも見事にキャッチしてしまう。そしてその二つをテーブルの上に乗せると

「ようやく見つけた」

私を半ば睨むように見つめながらそう言った。左耳がほとんど聞こえいなくても、杏寿郎さんがとても怒っている事はその声色からも、表情からもすぐに理解できた。

あんないなくなり方をすれば…あたりまえか。

「…帰って「帰らない」…っ!」

私の言葉に被せるように杏寿郎さんは言った。

「…言いましたでしょう?本日の営業はもう終了です。申し訳ありませんがお帰りください…っ!」

「そう言われ…はいわかりましたと、俺が従うと思うか!?」

「…っ!」

杏寿郎さんの大声に、私の肩が大きく揺れる。

するとその大声を聞きつけた奥さんがバタバタと足音を立てながら

「どうしたんだい!?」

と、慌てた様子で店の裏からやってきた。

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