第11章 もう聞こえない【音好きシリーズ】
「あんたのせいで煉獄様は怪我を負ったのよ?この道にいるってことは、煉獄様のところに行こうとしてるんでしょ?よくもまぁのこのこ行こうとできるわね」
杏寿郎さんの元へと向かう道すがら出くわしたのは、名前も知らない、顔も見たこともない女性隊士3人。けれどもすぐ、杏寿郎さんに好意を抱いている隊士であることは察しがついた。
「私達、お見舞いの帰りなの。でも、玄関先で弟さんにお見舞いのお菓子を渡しただけで帰ってきたの。だって煉獄様はあんたのせいでまだ療養してるからね」
「…っ…」
普段なら"こんなのやっかみだ''と聞き流せるこの言葉達も、今の私には十分すぎるほどに心に深く突き刺さる。
「折角直々に稽古をつけてもらう予定だったのにぃ。誰かさんのせいでそれも無しになっちゃったわ」
「…ごめん…なさい…」
踵を返し、きた道を戻ろうと振り向くと、背後からクスクスと笑い声が聞こえ、私の心は以前のように冷たく硬く、凍りついた気がした。
「さっさと帰れ」
雷の呼吸の使い手で良かったと、そう思った。
シィィィィイ
だってこの場から、一瞬でいなくなれるもの。
ふと、目の端に人影がうつる。
…胡蝶様の継子の…栗花落さん…?
嫌なところを見られてしまった。けれども、栗花落さんは他人に興味がなかったなと思い出し、きっと今見たものも、なんとも思っていないだろう。そう結論づけ、私はそのまま一度も足を止めることなく長屋へと走った。
風呂敷に荷物を詰め、除隊届を自分の鎹鴉に託す。
「今までたくさんありがとう。貴方が私の鴉で良かった。…今度はもっといい主人に会えるとを願ってる。…お館様によろしく伝えて」
私がこうなったら何を言っても無駄だとわかっているのだろう。鴉は悲しげに
カァ
とひと鳴きすると除隊届を咥え、長屋を出て行った。
「…こんな私で…ごめんね」
逃げ出す私が、これを持っているべきじゃない。
腰に刺していた日輪刀を部屋の中心に置いてあったちゃぶ台にゴトリと置き、玄関まで行き草履を履き、そのまま振り返ることなく後ろ手で長屋の扉を閉めた。