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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第11章 もう聞こえない【音好きシリーズ】


お団子を仕込んでいるときに聞こえてきたのは

「いい子が来てくれてよかったねぇ」

「本当よ。あの人が体調崩しちゃってもう店を畳むしかないと思っていたんだけど…すずねちゃんが来てくれたからまだもう少し続けていけそう。この店がなくなるまでその、美味しい小豆、いっぱい買わせてもらうからね!」

この店の奥さんと、小豆を売りに来てくれる近くのお店のおばさんの会話だ。

「それは有難い。それにしても…あの身体のどこにあんな力があるんだかねぇ」

「本当。あんな女の子にうちの力仕事は務まらないって一度は断ったんだけど…下手したらあの人より全然力持ち!不思議なもんよねぇ。本人は左耳があんまり聞こえないなんて言ってたけどそんな感じもほとんどしないし」

「なにか訳ありなのかもしれないねぇ」

「どんな訳があろうと関係ないさ。あんなに働き者でいい子はいないよ」

女将さんのその言葉に、思わず泣きそうになった。





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杏寿郎さんも、天元さんも、雛鶴さんも、マキオさんも、須磨さんも、善逸も、炭治郎君も、伊之助君もひどい怪我は負ったものの、誰一人として命を落とすことなく、無事上弦の陸の頸を切ることができた。


けれどもあの戦いで、私の左耳はほとんど聞こえなくなってしまった。全ては自分の判断の遅さ、対応能力の低さが原因だ。私は、命は失わなかったものの、鬼殺隊士柏木すずねとしての最も大切なものを失ってしまったのだった。


胡蝶様に

"おそらく聴覚が元に戻る可能性はない"

と言われ、私は絶望した。

片耳だけでは今までのように気配を探ったり、音の変化に気づくことができない。その能力を失った私は…果たして必要な存在なんだろうか。

そのことに関する相談も含め、私は杏寿郎さんと話がしたくて蝶屋敷を出てそのまま自宅療養をしている杏寿郎さんの屋敷へと向かった。

"すずねなら大丈夫だ!"
"発揮できる能力が減ったとしても、すずねは必要な存在だ!"

そう、いつもの笑顔で言って欲しかったんだと思う。

でも、神様はそんな私の甘えを許してはくれなかった。


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