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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第11章 もう聞こえない【音好きシリーズ】


あの列車の任務の時、

"愛する人の為にいつか死にたい"

確かにそうと思ったはずなのに、今もこうして生きている。そして私は今、

"愛する人と共に生きたい"

とそう思っていた。

「…私…っ…」

「ん、なんだ?ゆっくりでいい。話してみるといい」

「…っあの…」

言葉が上手く出てこない私の背中を、杏寿郎さんが優しく撫でる。

「うむ。君は今、大分混乱しているようだ。この部屋に紙と筆はあるだろうか?」

「…紙と筆…?確かそこの、杏寿郎さんの隣にある小さな引き出しの中に入っているみたいですけど」

「ここか?」

杏寿郎さんは私が指差した焦げ茶色の小さな引き出しを開けると

「あったな。どれ、ここに今すずねが思っていることを書いてみるといい」

そう言って、私に向けてズイッと紙と筆を差し出した。どうしてそんなことをする必要があるのかいまいちピンとこない私は、差し出されたそれらをじっと見たまま固まってしまう。

杏寿郎さんはそんな私をじれったく思ったのか、スッと立ち上がり、

「…ひゃっ…!」

私を徐に抱き上げると、部屋に備え付けてある小さな座卓の前に行き、器用にも私を抱いたままその前に座った。そして、少し皺が寄ってしまった紙を座卓に置き、

「ほら、持ちなさい」

と筆を私の手に握らせた。戸惑いながらもそれを受け取り、杏寿郎さんの方を振り向くと

「考えが纏まらない時は、こうして文字に起こしてみるといい。散らばってしまっていた思考が、こうして視覚化することで、だんだんと纏まってくる場合もある」

「…そう…なんですか?」

成る程。だから紙と筆と言うわけか。

私は杏寿郎さんのアドバイスの通り紙に自分が今思っていることを書き出す。

雛鶴さん、マキオさん、須磨さんを助けたい。
天元さんと3人をまた一緒にいさせてあげたい。
杏寿郎さんに怪我をして欲しくない。

ここまで書いた時、

「ちょっと待て」

杏寿郎さんの声が背後から聞こえ、

「なんです?」

私は筆を持ったまま再び杏寿郎さんの方へと振り向いた。

「すずね。確かにこれらが君が今考えていることだと言うことは理解した。だがこれは全部人のことであり、"君がどうなりたいか"が一つも書かれていない」

「……そう…なんですけど…」

自分でも思っていたことを指摘され、私は言葉に詰まる。


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