第2章 虎のような私の英雄✳︎煉獄さん
「あぁん!?俺が痴漢したったいう証拠はあんのか!?」
「ない。だがされた本人である彼女の証言があれば十分だ」
「はぁ!?んな訳ねぇだろ!冤罪だ冤罪!」
そう騒ぎ立てる痴漢男に、男性は全く怯む様子はない。だが、私は、私の勇気がないばかりに、この男性をこれ以上巻き込んでしまうのが嫌だった。
「…あのっもういい「私!…スマホで動画撮っていました!」」
私が全てを言い切る前に、私たちの正面に座っていた女子高生がそう声をあげ、私たち3人の視線がその女子高生へと向く。その女子高生の顔色もあまり良いものとは言えず、きっと怖い気持ちを抑えて私のために声を上げてくれた事が垣間見えた。痴漢男が小さく"なんだと"と呟いたのが耳に入り、一方私を助けてくれた男性の方は
「観念するしかないようだな」
とはっきりと痴漢男に突きつけるように言った。
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無事痴漢男を駅員に引き渡し、私、男性、そして女子高生の3人は少しの聴取を受けた後に解放された。
「本当にありがとうございました」
深く頭を下げお礼を述べる私に
「お礼など必要ない。人として当然のことをしたまでだ」
と男性は言った。けれども女子高生の方はほんの少し様子がおかしく、顔も俯きよく見えない。心配になり、その様子を覗き込むと
「ごめんなさい…私、おかしいって気が付いていたのに…怖くて声を掛けられませんでした」
そう言って目に涙を浮かべていた。
「そんな!謝らないで…。あなたの機転のおかげで、あの痴漢男を黙らせる事ができたの。私を助けてくれたこの人にも、迷惑をかけずに済んだ。お礼を言うことはあっても、謝られることなんてない!」
「…でも…」
「彼女の言う通りだ。君は怖いながらも自分ができる最善の策を取った。誇っていい」
その男性の言葉に、女子高生の目から、とうとうポロポロ涙が溢れ出す。
「あー!ほらほら泣かないで!よし、私の元気の源、美味しいチョコレートをあげる!次同じ事があったら今度こそ私もちゃんとあなたを見習って声を上げられるように頑張る。だから泣かないで」
「…はい」
女子高生はグイッと涙を手で拭うと、私が差し出したチョコレートを受け取ってくれた。
彼女がいなくなり、この場にいるのは私と男性の2人となった。
「君はもう大丈夫か?」
「…はい。お陰様で」