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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第2章 虎のような私の英雄✳︎煉獄さん


気のせいかなと思った。わりと空いている時間帯で、どこもかしこも座れるスペースがある。なのにその男は、電車の横並びの席の端の手すりにもたれかかるように座っている私の隣に座って来た。

…なんか距離を詰められている気がする。

いやでも、車両内にポツポツと人はいるし、なんなら目の前に女子高生も座ってるし、そんな中痴漢なんてする訳がない。そう思う事にした。けれどもその男の身体が、いよいよ私の身体に密着するかのように寄せられ、男と手すりに挟まれ、私の身体は身動きすら取れなくなる。やっぱりおかしい。

「…っ…」

気のせいかもしれない。気のせいだと思いたい。そう思っていた。

…触られてる。

隣に座るその見知らぬ男は、腕を組んで上手く手を隠しながら私の胸をツンツンと指でつついて来た。

偶然な訳ない。…この人…痴漢だ。

先程も述べたが、ここは電車の中で、人はポツポツといる。目の前には女子高生も座っている。なのにこの男は、私の胸をその汚い指でつついてくるのだ。

こういう時、自分はきちんと声を出せるタイプの人間だと思っていた。

"何するんですか?"
"あなた痴漢ですよね?"

そう言って最低な痴漢男なんて自分で撃退できると思っていた。けれども現実はそうではなかった。

私の身体はどんどん冷たくなっていくし、手も震えてくる。そんな私の様子にもっといけると思ったのか、男が私の胸に触れる回数がどんどん多く、長くなっていく。

声は…出せない。でもせめて立ち上がってこの場を去るくらいは…出来る。

歯を食いしばり、両足にグッと力を込め立ちあがろうとしたその時。視界にこげ茶色の革靴を履いた爪先が突如として表れた。ハッと顔を上げたその時、

「痛ってぇ!」

吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な緋色の瞳を持った男性が痴漢男を睨みつけながら、グイッと私の身体からその男の身体が引き剥がしてくれた。戸惑いながら更に視線を上げると、その男性の派手な髪色が視界に入り、あまりにも奇抜なその髪色に、助けてもらったのに失礼だが一瞬この人もヤバい人なのではないかと思う。

「っ離せよ!」

暴れ逃げ出そうとする男の様子に少しも怯む事なく

「次の駅で一緒に降りてもらう」

とその男性は言った。

「お前には関係ねぇだろ!」

「ある。か弱い女性に痴漢行為を働くなど、不快極まりない。駅員に突き出す」

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