第10章 聞こえるのはあなたの音【音好きシリーズ】
「…気を遣わせてごめんね。予想以上に思った通りに行かなくて、少し焦ってるの」
こんなことをしている間に、3人に何かあったら。想像すると恐ろしくて堪らない。
気づくと私の脚は止まり、自分のつま先をじっと見つめながら通路の真ん中で立ち止まっていた。
「大丈夫です」
炭子ちゃんの言葉に、パッと顔をあげると、ひたすら真っ直ぐな視線が私へと向いていた。
「すずねさんが動けない分も俺が頑張ります。それに、他の店にはそれぞれ善逸と伊之助がいます。俺たちを信じて下さい」
「善逸に…伊之助君も…?」
「はい!すずねさんも知っての通り、善逸は耳が凄くいいし、伊之助は野生動物みたいに感覚が鋭いんです!だからきっと、あの2人が何か掴んでくれるはずです!」
その言葉は、本当に心からそう思っていることがよくわかり、私に平常心を取り戻させるのには十分な響きを含んでいた。
「…そっか。…ありがとう」
「はい!」
列車の任務で初めて会った時は、正直に言うと炭治郎君たちにはあまり頼れそうにないなと思っていた。けれども、あれから3ヶ月ほど経過し、そんなことを思っていたのが申し訳ないと思う程の成長具合をその姿から感じ取ることができた。
「頼りにしてる」
そう言って笑った私に、
「任せてください!」
炭子ちゃんも同じように笑顔を向けてくれた。
その直後、
「やっと見つけた。すずねちゃん。お琴を教えてくれる約束でしょう?みんなもう揃うから早く来て」
同じ太鼓女郎の女の子が、そう言いながら私に手招きする。
「わかりました!今行きます!…ごめん、もう行かなきゃ」
「はい。あ、明日の日中、定期報告があります!宇髄さんがすずねさんも来るようにって言ってました!」
「わかった。その件については、また後で詳しく聞きに行くね。それじゃあ」
炭子ちゃんにそう告げ、私は何故か頼まれてしまったお琴の指導をするため、仮の同僚達が待つ部屋へと向かった。
————————
夜になり、昨日同様、宴会場に向かおうとしたその時、
「すずねちゃん、女将さんが部屋まで来いだって」
同僚が慌てた様子で私の元へと駆けてきた。
「…でも、もう宴会の準備をしないと」
「私もそう言ったんだけど…もしかして、座敷にあがれとか言われるんじゃない?」