第1章 リップ【国見英】
「………ごめん。違う。似合わないわけじゃない。
だけど、はそんな派手なリップじゃなくて
いつものの方がもっとかわいいし、
それに、俺以外の男のために
髪を巻いたりリップをつけたり。
そんな風に準備するのも嫌」
ずっと私の手の甲を撫でていた英くんの右手が
巻いたばかりの私の髪に触れる。
「え?」
思わず顔を上げると、少し不安そうな
「これからも、ここにいてもいい?」
「うん?」
「うん。よかった」
………あぁ
さっき私が「なんでいるの?」って聞いたからかな?
「ねぇ英くん。これからも会える?」
「今まで会えなかった分、会うつもりだけど?」
「………うん」
今まで会えなかった分
会えるんだ。
「ねぇ、あのさ」
「ん?」
「リップ」
「あ、落とすね」
メイク落としに手を伸ばす。
「じゃなくて」
「ん?」
「うつらないか。もう一回、
試してもいい?」
……………。
それが何を意味するのか。
今の私は知っているから
恥ずかしくなって思わず下を向く。
だけど、さっきとは違って
英くんは私のことを待っていてくれる。