第1章 リップ【国見英】
おずおずと顔を上げると、返事をしない私に
ちょっと困った顔の、だけど私の大好きな
優しい顔の英くん。
「………試、す?」
「うん。試させて?」
英くんが私の方に、
またちょっとだけ近づく。
やっぱり少し恥ずかしかったけど、
今度は私も、一歩前に。
英くんの親指が、ゆっくりと私の唇に触れて
近づく顔に、そっと目を閉じる。
その感触に、もちろん今度は突き飛ばしたりなんてしないし
胸の奥がきゅうっと締め付けられた。
さっきよりもずっと長くくっついていた私たちの唇が離れて
「どう?」
英くんが、今度は自分の唇を親指でなぞりながら
「ついて、ない」
「すごいね。本当に全然つかないんだ」
「ね」
「キスする時は良さそう」
少し意地悪そうに笑われて、
恥ずかしくて思わず顔を背ける。
だけど
「このリップ、つけてもいいの?」
「んーーー。でもやっぱりちょっと派手じゃない?」
「じゃあ、同じやつの薄い色、は?」
「それならいいね。一緒に買いにく?」
「選んでくれるの?」